お茶会の考察 ~カギを握る5つのカード~

~概要~

今回の考察は長編なので流れについて簡単に記します。ちなみに本誌の1067話までの内容を含むのでネタバレには注意してください。



(名探偵コナン95巻File.9 ©︎青山剛昌/小学館)



*Aパート*

時系列を軸に【お茶会前】【お茶会直前】【お茶会後】がどのような状況だったのか、コナンチームと安室の二つの視点で整理していきます。



*Bパート*

お茶会前後の内容からその間に位置する【お茶会】の具体的な内容を考察していきます。特に今回は5つのカード】に注目しながら、ブラックボックスとなっているお茶会の内容に迫ります。



所々精密に考察していくところがあるため比較的長い考察になっていますが、最初のAパートは今までの内容を振り返るくらいの感覚で読み進めることをお勧めします。お茶会前後の状況を丁寧に分析していくパートなので、既に十分わかっているという方はAパートを飛ばしてBパートの考察から読む方が手っ取り早くていいかもしれません。





A.お茶会前後でわかっていること

【お茶会前】

⑴コナン+赤井+工藤夫妻の状況

⓪迷宮カクテル編

迷宮カクテル編は工藤新一に関する一連の騒ぎが収まった直後の話であり、公安の安室が黒の組織のメンバー「バーボン」として工藤新一を探り始めたことを契機に物語が動き始めます。工藤新一の情報を探るために新一と恋人関係にある蘭に接近、そして店内で蘭の財布を人知れず盗み取り工藤邸のカギを複製するための型を取ることに成功します。


一方コナンは工藤新一を探りに蘭に近づいてきた安室を早いうちから警戒していました。探偵事務所を出てから店内まで安室の一連の行動を鋭い眼で観察していたコナンなら、安室の目的、すなわち「安室が蘭の持っている工藤家の鍵の型を取って、鍵を複製した後に工藤家に侵入することで工藤新一の情報を得ようとしていること」に当然気づいていたことが読み取れますが、それと同時にコナンサイドに刻々と差し迫っている二つの大ピンチを危惧していたのではないかなと思います。まずはコナンの心中に浮かび上がったであろう二つのピンチ」とは何であるかを状況を整理しながら考えてみます。


①赤井秀一のピンチ(安室と沖矢の対峙)

一つ目に考えられるのが安室と沖矢昴が対峙してしまうというピンチ。読者視点でもなんとなくやばそうな感じがすることですが、この点がなぜコナンサイドに大きなピンチをもたらすのか時系列に沿って確認します


そもそも85巻の『緋色シリーズ』ではコナンの策によって安室を出し抜いた上に沖矢赤井であると思わせることに成功しました。しかし90巻の『裏切りのステージ回』で安室は沖矢の利き手が左に変わっていることから再び沖矢に疑いをかけはじめ、事件解決後に安室は沖矢に対して「そのハイネックめくりたい衝動に駆られますが今はやめておきましょう、いずれまたと言い残して去っていきました。


この事件をきっかけに安室は沖矢=赤井であることを再び疑い始めたということがわかりますが、94巻の『灰原のストラップを探せ編』で安室は沖矢の住む工藤邸の前で路駐して沖矢を観察、さらに疑惑を深めているのことが読み取れます。一連の経緯を考えると沖矢が安室と対峙すれば、沖矢の正体が赤井であることを見破られてしまう可能性が高い。


そうなってしまうと元々赤井がスコッチを組織に売って自身のスパイ活動を優先したことに根深い恨みを持っている安室が緋色シリーズと同様に赤井を組織に売ってでも自身のスパイ活動を有利に進めようとすることは目に見えているので、コナンサイドには安室の口を強制的に封じ込めるという選択肢しかなく一触即発は免れないという事態に。最悪の場合赤井が殺されるだけでなく、安室のリークによりキールも殺されることになり赤井を偽装死させることで組織に打ちつけた鉄の楔すら消えてしまうことになってしまいます。


少し丁寧に説明しすぎましたが、このように細かく見ていくとコナン達はこのピンチを何がなんでも避けなければならないことがより鮮明になったかなと思います。



②工藤新一のピンチ(バーボンの調査)

もう一つのピンチは安室ことバーボンが組織の任務として工藤新一の情報を手に入れようとしている点です。ここでなぜピンチになるかを確認するために一度補足をします。


85巻『緋色シリーズ』でコナンは安室の正体が公安の潜入捜査官であることにたどり着きましたが、一方で安室はコナンの正体にいったいどこまでたどり着いているのでしょうか。78巻のミステリートレイン直後の密室事件では、安室はコナンのことを眠りの小五郎と称していたことから、この時点で安室はコナン=眠りの小五郎に気づいていたことがわかります。そして85巻『緋色シリーズ』で安室は「あの少年とこの家の家主の工藤優作がどういう関係かはまだわかっていませんがと発言しています。


つまり安室はミステリートレイン直後に起きた事件ですぐにコナン=眠りの小五郎には気づいていたが、緋色シリーズの時点ではコナン=工藤新一までは辿り着いていないということ。それからお茶会までコナンの正体に気づいたような描写は特にありませんし、安室はコナンの本当の正体「コナン=工藤新一」にまではたどり着いてないことがわかります。


よって安室視点では工藤新一と組織の関係(新一はジンに殴られたあとAPTX4869を飲まされて死んだことになっているが、実は薬の作用で幼児化した)をほぼ何も知らないということ。この点を踏まえて考えてみると、いくら安室とコナンが信頼関係で結ばれているとはいえ、コナン側がなんのアプローチもしなければ組織の任務として工藤家に侵入した安室が工藤新一は生きていることを示す証拠やコナン=工藤新一となる手がかりを知らず知らず組織に渡してしまう恐れがあります。工藤新一が生きていたことがバレれば十中八九工藤邸とその周辺人物は襲撃されることになりますし、APTX4869の効果を知っている組織の人物によりコナンの正体がバレるのも時間の問題でしょう。


このように想定してみると新一のピンチも絶体絶命の一歩手前に位置するほどの大ピンチであることが明確になったかなと思います。



⑵安室の状況

RUM(組織)が工藤新一の情報を要求

修学旅行編の後に工藤新一の生存疑惑が一時的に浮上しました。この騒動は工藤夫妻の暗躍により世間的にはデマであると錯覚させることで一区切りつきましたが、優作の読み通り黒の組織には目をつけられることに…。特に組織のNo.2であるRUMが工藤新一に対して疑惑を持ち始め(APTX4869でジンが殺したことを知っているのかもしれません)、組織で情報収集を得意とする安室透ことバーボンにRUMから工藤新一の情報を探れという命令が下るという波乱の展開が裏で巻き起っていました。


RUMからメールを受け取った時に安室はとても驚いた表情をしていたので、RUMとメールをするほど接近したのは今回が初めてだったのかもしれません。いずれにせよ組織の中でも言わずと知れた大物であるRUMから命令を受けた安室としては、相手(RUM)にさらに接近するためには信頼される必要がある、そしてそのためにはなるべく価値のある情報を届けて結果を残すべきだと考えていたことでしょう。



②黒田(公安)が工藤新一の情報を要求

一方で公安の上司である黒田もRUM(脇田)と同じく修学旅行編のラストシーンで工藤新一の名前に反応しています。黒田が「工藤」に反応するのは一見すると不可解に思えます。しかし振り返ってみると実は緋色シリーズと繋がりがあります。


『緋色の帰還』のラストで安室は次のようなセリフを発しています。

「我々の正体が知られた以上、これ以上の報告は危険です。上には僕の方から報告しておきますから」


このセリフから降谷零は今回計画した赤井捕獲作戦について上司なる人物に報告をしていることになりますが、この上司とは黒田である可能性が極めて高いです(理由は割愛)。つまり「降谷は死んだはずの赤井秀一が工藤新一の実家である工藤邸に密かに住んでいると推理したうえで、工藤邸に突入した」ことを黒田も知っていることになります


この点を踏まえると黒田が修学旅行編ラストにみせた「工藤」という反応は、「あの降谷が、赤井秀一が密かに生きていると推理して突入した場所も工藤邸だったな」という反応を示したものである可能性が高い。となると黒田としては当然赤井秀一を筆頭とするFBIと生存疑惑が浮上した工藤新一に何らかの特別な関係があるのではないかという疑念を持ったのではないでしょうか。そして浮上した工藤新一の生存疑惑が不自然に揉み消されたニュースを見て黒田はなぜか笑みを浮かべています。この笑みは「黒田が工藤新一には死んだことにしておかなければならない何らかの裏があることを確信した心理」を表したものだったのではないでしょうか。


このように推理してみると公安のボスである黒田としては赤井秀一(FBI)と工藤新一には隠された関係があり、工藤新一の情報を探れば恨みに思っているFBIの弱みを握ることが出来るのではないかと考えたはずです。となれば作中では描かれてませんけど黒田も公安として降谷に工藤新一の情報を要求している可能性は高いと思います。



③毛利蘭を利用して工藤邸へ接近

組織と公安の上司両方から工藤新一の情報を要求された安室は早速工藤新一の恋人である毛利蘭と接触を図りました。そして蘭の所持品を利用して工藤邸へ忍び込むための合鍵のコピーを作ることに易々と成功し、その日の深夜に工藤邸に侵入する計画を実行しました。


【お茶会直前】

お茶会に突入する直前の出来事についても簡単にまとめておきます。


「家に住んでいる沖矢昴が消灯したのを確認したあとで、安室は複製した合鍵で工藤邸に侵入することに成功。しかし待ち構えていた赤井秀一が真の姿で現れ、拳銃を向けあった状態で対峙することに。緊張感が高まり安室が引き金を引こうとした瞬間に電気がつき工藤夫妻が登場して、工藤夫妻が安室透を秘密のお茶会に温かく招き入れた」


ここまでは95巻の『迷宮カクテル編』で描かれていますが、このあとどのような会話がなされたのかは未だ明らかになっていません。このブラックボックスとなっているお茶会の中身を次のパート『B.お茶会の真相を考察』で具体的に考えていきます。


【お茶会】

 →『B.お茶会の真相を考察』


【お茶会後】

⑴コナン+赤井+工藤夫妻の状況

①コナン

1067話によりコナンはお茶会の存在すら知らないことが明らかとなりました。迷宮カクテル編でバーボンが工藤新一の情報を探るために合鍵を作ろうとしていることをコナンが優作達に伝えていた可能性は十分あり得ますが、いずれにせよコナンはその後どのような交渉が行われたのか全く知らないという立ち位置。とりあえずコナンに組織の魔の手が長らく及んでいないことから、組織は未だ工藤新一=江戸川コナンという真実には辿り着いていないことは明らかです。


②工藤夫妻+赤井秀一

1067話により優作と赤井は安室に対して何らかの交渉をしたが、安室が結論を出さずに持ち帰ったため取引に対する安室の返答を待っている状態であることが判明しました。返答待ちという停滞した状態のようですが、とりあえずFBI連続殺害事件でキールは生きていたことがわかっているので赤井秀一が生きていることは組織にバレずに済んだことも同様に明らかになっています。


⑵安室の状況

RUM(組織)への返答

『雪山の山荘編』でRUM(脇田)は安室に対して次のような意味深な発言をしていました。


RUM「自分を謀る裏切り者がわかるじゃないですか鮮度の落ちた魚を高値で売りつける仲卸とかね」


これは比喩的な表現であるため真意を読み解く必要がありますが、これが安室に対する発言であることを考えるとこの発言の真意は「裏切り者がわかるじゃないですか古くなった情報をあたかも価値のある情報として届けてくる情報収集人(媒介人)とかね」という解釈でよいと思います。RUMが直近で安室に要求していた情報は工藤新一の情報だったので、ここでいう情報とは工藤新一に関する情報であったことになり、安室はRUMにメールの返信をしていること、さらにその内容が周知された重要度の低い情報だったことが見えてきました。


また安室はこの行為により結果的にRUMから裏切り者なのではないかと疑いをかけられる立場になってしまった、この点も特筆すべきことだと思います。


②黒田(公安)への返答

女性警察官連続殺人事件のラストシーンで安室は黒田から「例の件」はどうなっていると聞かれ、「まだ何も」と返答しつつも脳裏にはお茶会での出来事を思い浮かべていました。


まず例の件とは黒田が安室に最近要請している任務でありかつお茶会と繋がりがあることから、「工藤新一の調査を要請した件」であることがわかりますが、安室はお茶会であった一件を「まだ何も調べられていない」とウソをついて黒田に隠しています。この時の安室の表情に緊張が走っていることには何らかの意味がありそうですね。





B.お茶会の真相を考察

お茶会前後の状況を復習したところで、いよいよお茶会の真相に迫っていこうと思います。Aパートを読んでいただいた方はすでにお気づきかと思いますが、お茶会前後では重要な変化があります。その変化とはお茶会前には赤井秀一と工藤新一の二つのピンチがコナンサイドに迫っていたが、お茶会後はそれら二つのピンチが解消されていることです。ということはお茶会を通じてこの二つのピンチを解消する何かの出来事が行われたということがわかりますよね。まずはこの変化の源流から考察してきたいと思います。


⑴ 赤井秀一のピンチを解消

①「緋色の真相」3枚のカード

工藤邸に侵入してきたバーボンに沖矢昴=赤井秀一を見抜かれてしまうというピンチが迫っていましたが、お茶会後の様子を見る限りコナンサイドはこのピンチを凌いだことが読み取れます。では具体的にどのようにして凌いだのかということになりますが、そのヒントとなるのがお茶会直前の赤井秀一と工藤優作の行動です。


85巻『緋色シリーズ』では有希子の変装を駆使することでうまく誤魔化してピンチを「回避」しました。しかし今回は打って変わって赤井秀一が変装を解いた状態で安室と対峙したうえに、安室の前に現れた工藤優作が「今日は以前と違ってお連れの方達はいらっしゃらないようなので…ゆっくり妻のいれた紅茶でも味わっていってくださいねと発言して、前に安室とあったことを自らほのめかしています。


つまり優作と赤井は以前の緋色シリーズ』の時のようにトリックによって安室を出し抜いてピンチを回避するのではなく、今回は自らの真実を安室に明らかにしたうえで、(強制的な力によるものではなく)対話によってこのピンチを解消しようとしている姿勢が見て取れます。


よってまずお茶会の最初の話題は優作と赤井が自らの真実『緋色の真相』を安室に話すこと、言い換えれば自分達の持っている以下の3つのカードを安室に見せることだったのではないでしょうか。3つのカードとは以下の3つの情報のことです。


❶工藤優作は赤井(FBI)の協力者

❷工藤有希子は変装術を習得している

❸沖矢昴=赤井秀一


❶について少し触れておくと、お茶会直前で工藤優作が現れてめっちゃ驚いていたことからもわかりますが、安室視点では赤井秀一(沖矢昴)がコナンによって工藤邸に住まわせてもらっているだけであって、家主である工藤優作と関係があるとは思っていない状態なんですよね(読者視点では優作がコナンのお父さんであることを知っているので当たり前なことに思えるんですが)。なので安室視点ではここで初めて世界的推理作家で工藤新一の父である工藤優作がFBIの赤井に協力していることを知ったということになります。

では次に真実を打ち明けた優作と赤井ががどのように赤井秀一のピンチを解消としたのかについて考えていきます。


②優作が仲裁

「狩るべき相手を見誤らないでいただきたい」

『緋色シリーズ』にて赤井秀一が安室透に電話越しで忠告した言葉です。しかしお茶会直前で再び赤井と対峙することになった安室は引き金を引こうとしていました、あの時の赤井の言葉は安室の心には届いていなかったようです。やはり赤井に対する安室の恨みは根深く、安室としては赤井がスコッチ(安室の親友である諸伏景光)を売って組織での地位を高めようとしたように自分も赤井を売ってでもスパイ活動を有利に進めようという心理なのでしょう。


このように当事者間では対話すら成り立たず、どちらかが死ぬまで力による争いが永遠に続いてしまう状態です。よって血を流さずに対話によって和解するには第三者の存在が不可欠であり、そこで赤井と安室のお互いの立場を理解している優作が間に入ることで対話による仲裁(説得)をしようとしたのではないかなと思います。



③「スコッチの真相」は話した?

では優作は具体的にどのような説得をしたのかが問題になりますが、それを考える上で最も気になるのがスコッチの死の真相を安室に話したのかという点ですよね。安室が赤井を敵対視している直接的な原因は「スコッチの死」に対する安室の勘違いです。なので単純に考えればこの誤解を解くこと、すなわち優作がスコッチの真相を安室に話すことが今回の赤井秀一のピンチを解消する最も近道です。しかし今回はこの真相を話すことはなかったのではないかなと推察しています。その理由を以下に述べます



今回の作戦会議で赤井は優作に対して自分だけでは安室と話し合いにより和解することが難しい理由(確執の原因)を事前に伝えていたとは思います。しかし赤井としてはこの真相を伝えてしまうことで自信家である安室の心に大きな穴を空けてしまうことを懸念したのではないでしょうか。真相を伝えることで確執は解消出来るという見込みはありますけど、安室がその真実をすんなり受け止めて和解をするような形にいくかというとそう簡単なことではないですよね。また当事者でない優作が赤井の思いを無視して、和解を優先するために安室にスコッチの死の真相を伝えることはないでしょうから、赤井が話さないでおくべきだと話していた場合は優作も話すことはなかったと思います。またお茶会後の安室の様子なんですが、心に大きな穴が空いているような影のある描写は全くありませんしお茶会のことを思い出してコナンを抜かりのない探偵だと評して活き活きとしていたシーンもありますし、安室はスコッチの真相を聞かされていない可能性の方が高いのかなと予想しています。


では優作は具体的にどのような説得を試みたのかということですが、二人に共通の敵を再認識させることだったのではないでしょうか。単純なことのように思えますが、安室は以前赤井にそのこと説得されても自己を省みようとはせずに今回も赤井を組織に売ろうとしていました。このような安室の感情的な行動について優作が第三者視点から諭したのかなと思います。具体的なセリフを考えるのは難しいですが例えばお互い分かり合えない深い溝があったとしても、我々が本当に戦わなければならない相手は「黒づくめの組織」であり、我々はその点で同士・仲間であること、そして緋色シリーズを通して味わった二人の類まれなる能力は貴重であること、お互いの実力は自分達がよく理解していることなどが考えられますね。



【⑵工藤新一のピンチを解消】

次にテーマとなるのが工藤新一のピンチです。具体的には安室が工藤新一の情報を探るよう組織から(特にRUMから)命じられていることですね。この点についてお茶会後の安室の状況でも説明しましたが、安室はRUM(脇田)に対して、独自に入手した新しい情報ではなく、周知された古い情報を送っていることがわかり、その結果RUMから裏切り者ではないかという疑惑をかけられていることが分かっています。よって優作+赤井は何らかの方法で工藤新一の重要な情報が組織に漏れないようしたことがわかりますが、いったいどのような方法だったのでしょうか。


①工藤新一はFBIが保護

そもそもなぜ工藤新一の情報が組織へ渡ると不都合なのか、まずはその点について優作と赤井が安室に説明しなければなりません。読者視点では明らかなことですが、工藤新一の情報が組織に渡ってしまう問題点は「工藤新一はジンにAPTX4869を飲ませて死亡したことになっているが、実はその薬の作用により幼児化してしまい江戸川コナンとして生きていることが組織にバレてしまう」からです。


となると優作と赤井は「緋色の真相」を明かしたのと同様に工藤新一の真実を、すなわちコナンサイドのトップシークレットのカード「工藤新一=江戸川コナン」を安室に見せたのではないかというシナリオが見えてきますが、実はそうではなかったのではないかと考えられるシーンが二つあります。


一つ目は秀吉が登場する棋士連続殺人事件です。この事件の中盤あたりで、コナンが優作にヒントをもらうシーンがありますが、優作は赤井秀一の前で「頼んだよ江戸川コナン君!」と呼んでおり、新一のことをわざと江戸川コナンと呼んでるんですよね。そして二つ目が去年話題になったFBI連続殺害事件です。ここでも優作は赤井秀一の前でコナンを親戚のこどもという設定のもとで接しています。ここから垣間見えることですが、優作はお茶会のあとも赤井秀一の前では「江戸川コナン=親戚のこども」として接しているということがわかります。つまり(もちろん赤井秀一は「工藤新一=江戸川コナン」に気づいているわけですが)優作は赤井秀一に新一の真実を隠しているということになります。


すると優作はお茶会で赤井秀一にも工藤新一の真実を話してはいないことになるため、その場にいた安室透も新一の真実を聞かされなかったということになります。


しかしそうすると優作は新一の真実を伝えずに「組織に工藤新一の情報が渡ると不都合である別の理由」を作ったことになりますが、どのような設定が考えられるでしょうか。そこで考えられるのがFBIに保護されていることにするという設定です。


例えば「新一は例の組織が絡んだあるアメリカの事件に巻き込まれた。その際組織の手によって殺されかけたがFBIにより保護された。組織は新一を殺したと思っているため、現在はFBIが秘密裏に工藤新一を保護している」という設定が考えられます。


上のような設定にすればFBIと工藤優作が組織を追う目的で繋がっていることの辻褄をうまく合わせることができますし、安室を納得させるのに十分な設定ではないかなと思います。


安室に工藤新一の情報が渡ってしまうと都合の悪い理由を以上のように説明した優作と赤井はこの後どのような方法で新一のピンチを解消したのでしょうか。


②説得→× 取引→○

一つ前に述べた赤井秀一のピンチに関して一度振り返ってみます。安室透は赤井秀一を組織に売ることで組織での地位を高めることを目的として考えていました。よって安室としてはこれを成し遂げられなくても、組織に対抗する戦力を保持することにはなりますし自分にとって何らかの傷を負うことはないです。また安室自身が感情に駆られて狩るべき相手を見誤まっている(合理的な判断が出来ずにいる)ことも第三者によって指摘されればわかることだとは思いますし、優作による説得だけでこのピンチは解消するには十分な勝算があったのではないかと思います。


しかし工藤新一のピンチに関しては赤井秀一のピンチとはわけが異なります。なぜなら安室は工藤新一の情報を組織から要求されている立場にあり、仮に安室が工藤新一の情報を組織に渡さなかった場合、ほぼ確実に傷を負うことになってしまうからです。すなわちこの任務に関しては断れば安室自身にデメリットが発生する恐れがあるという状況なんですよね。なので赤井秀一のピンチを解消した時と同じように説得するだけでは安室も要請には応じかねるでしょう。増して今回情報を要求しているのはRUMであり、RUMに接近するために信頼を勝ち取りたいと考えている安室ならなおさらこの任務については簡単に引き下がることはないはずです。優作と赤井もこのことは十分理解していたと思うので、安室にとってメリットとなる何らかの条件を提示したこと、すなわち取引をしたということが推理出来ます。次のパートではその取引の内容について考えていきます。


【⑶優作・赤井・安室の取引内容】

①優作・赤井安室への要求

優作と赤井が安室に対して工藤新一の情報を伏せるためにどのような条件を提示したのかをここでは考えていきます。


優作・赤井サイドが安室に要請する条件は単純に「工藤新一の情報を組織に漏らさない」というものでも十分ではありますが、File.1067での優作のセリフを考えるとそれ以上のものだったのではないかと考えられます。


優作「まだお茶会の返事をいただいていませんし」というセリフには「まだ(安室からの)お茶会の返事をいただいていないから(〇〇〇〇)すべきだ」という含みをもった一言であり、このセリフがFBI連続殺害事件が解決したあとの一言であることやFile1.060で優作が組織の大事に備えようとしていたことを踏まえると、隠された〇〇〇〇には「まだFBI捜査官が何人も殺されて戦力が下がっている状態であり、備えが不十分な段階ではこれ以上こちらから組織を追求するのは避けるべき」といった類の意味だったと考えられます。とすれば安室に対する取引は組織の大事に向けた重要なピースの一つであることが見えてきますが、そうなると優作達はただ工藤新一の情報を漏らさぬよう要求しただけではなさそうですよね。


このように考えていくと、優作と赤井が安室に対して要求したことは工藤新一の情報を組織に漏らさないこと以上に、組織と闘うためにコナンサイド(コナン+工藤夫妻+赤井秀一)と同盟関係を結ぶことを要求したのではないでしょうか。また安室が公安の上司であろう黒田にお茶会の件を伏せたことをさらに考慮すると、これは公安に対する協力要請ではなく安室個人に対して同盟関係を結ぶことを要求したものだった可能性の方が高いのかなと思っています。


1100巻の流れを振り返ってみるとコナン界にはFBI・公安・CIAMI6といった捜査機関が次々と登場してきましたが、その中でも組織を追う捜査官達が工藤一家を軸に徐々に集まってきています。赤と黒のクラッシュではFBIの赤井・CIAのキールが取引により同盟関係を結んでいますが、ここでさらに公安の安室やMI6のメアリーが同盟関係を結ぶことで「工藤一家(特にコナン)を中心として世界の各捜査機関をヘッドハンティングしたスペシャルチーム」が出来るように物語が動いているのかもしれません。


②優作・赤井安室への譲渡

一つ前のパートでは優作・赤井が安室へ要求した内容(取引のtake)について考察しましたが、ここでは優作・赤井が安室へ譲渡しようとした内容(取引のgive)について考えていきます。


安室に同盟を結んでもらうためにはそれだけメリットのある何かを提供しなければなりません。そこで優作・赤井(コナンサイド)が持っている組織に関するカードを考えてみると、思い当たる候補がいくつか有ります。

a.キールの情報

この情報について安室視点で考えてみると組織にもう一人CIAの協力者がいるということがわかるだけであり、組織を脱退した赤井としてはキールの情報はメリットがありますが、現在自ら組織に潜入している安室としてほとんど有益な情報にはならないのでこれはないと思います。


b.組織のNo.2であるRUMの情報

次に考えられるのが組織のNo.2であるRUMの情報ですが、お茶会の時点でコナンサイドが持っていた情報はRUMが義眼であるくらいですし安室の方がRUMには接近しているため、これも安室にとって有益な情報にはならないでしょう。


c.APTX4869の情報

組織の秘薬に関する情報であり、幼児化現象を知らない安室にとっては組織の秘密に迫る価値のある情報であることは間違いありません。しかしこれは同時に工藤新一の真実を教えてしまうことにもなってしまうので、それを避けようとしている優作が提示する条件としては矛盾しているかなと思います。また鳩山牧場の事件で安室が灰原の正体にはまだ気づいてない様子だったことからも、APTX4869の情報は提示していない可能性の方が高めです。


d.組織のボスの情報

優作と赤井は羽田事件で羽田浩司が残したダイイングメッセージを読み解くことで組織のボスが烏丸蓮耶であることに辿り着きました。一方で安室はボスとベルモットの関係には辿り着いているものの、羽田事件に対しては公安の研修時代に捜査資料を見たという認識でしかありませんでした。さらに安室はお茶会前でのRUMからのメールにかなり驚いていましたし、ようやくNo.2RUMに接触できるところまできたという段階でボスの正体についてはまだ辿り着けてないのではないかなと思います。となれば安室にとってこの情報はかなり価値のある情報ですし、この情報と自分がたどり着いたボスとベルモットの情報を掛け合わせればベルモットの秘密についてより深い真実を得ることができるので、メリットは十分にあると思います。


以上の推察から優作・赤井が安室に対して提示したカードは組織のトップシークレットである❺「組織のボス=烏丸蓮耶」のカードだったのではないかという結論に至りました。つまり優作・赤井は安室が個人的な同盟関係を結んでくれれば(工藤新一の情報を伏せてることも含まれている)、組織のボスの正体(に関する推理)を明かすという条件で取引をしようとしたのではないかなと思います。このように考えてみると、安室が黒田にお茶会のことを伏せた時に表情がこわばっていた意味も取引内容の重要性を表していたということで合点がいきます。


③安室優作・赤井への応答

File.1067の優作と赤井の会話により、お茶会の時点で安室は取引に応じることも断ることもなく、返事を一旦保留にしたことが分かっています。


安室視点で考えてみると、一方の選択肢は公安の任務を優先して優作・赤井の取引を拒んで組織に赤井秀一や工藤新一の情報を売ることでRUMから信頼を得て組織の中で高い地位に上り詰めることを意味しており、もう一方の選択肢は工藤新一の重要度の低い情報をRUMに送ることで信頼を損ない疑われるが、ピカイチの推理力をもつ工藤優作と(スコッチの件は許せずにいるが)申し分ない実力を持っているコナンや赤井と手を組めること、さらに工藤有希子の変装術を利用できること、組織のボスの正体を知れることを意味してるので、この二つの選択なら安室も迷ったのではないでしょうか。


そして安室が悩み抜いた末に出した答えが、工藤新一の重要な情報は組織に伏せる(組織に重要でない情報は送る)が、取引については応じるかどうかここでは判断しかねるから一度持ち帰らせて欲しいという折衷案を提示したのかなと思います。


安室が黒田にお茶会のことを話していないのは、個人的にコナンチームと同盟を結ぶという取引の内容によるものというのもあると思いますが黒田に取引のことを話してしまうと公安の任務を優先するように強制させれてしまい、取引には応じられなくなる可能性を考慮して慎重になっているのかもしれません。



こうして深夜のお茶会は閉会を迎えたがFBI連続殺害事件が終わった時点ではまだ安室から返事をもらえていないという状況で停滞しているようです。

【⑷まとめ】

ここまで読んでいただきありがとうございました^_^


今回の考察を簡単にまとめると、まず優作・赤井は安室に「❶工藤優作はFBI(赤井)の協力者❷工藤有希子は変装術を持っている❸沖矢昴=赤井秀一」という3つのカードを渡した。しかしコナンサイドのトップシークレット「❹江戸川コナン=工藤新一」のカードは渡さずに、組織サイドのトップシークレット「❺組織のボス=烏丸蓮耶」というカードを提示して安室と同盟関係を結ぶ取引を申し出た。安室は取引内容に悩んだ末一旦保留にして持ち帰ることになり、優作と赤井は現在安室の返事を待っている状態であるという流れです。総じて❶〜❺の5つのカードがお茶会の鍵となっているではないでしょうか。


まだ取引は成立していませんが安室がコナンチームと同盟関係を結べば、有希子の変装術を用いて誰かにすり替わることも可能になるのでますます面白い展開になりそうですよね。また安室は羽田事件に組織が関わっていることをここで初めて知ることができますし、そうなってくると若狭留美に対する調査もさらに進んでいくのではないかなと思います。


優作は組織の大事について知っているような素振りを見せていましたが、実は既に同盟関係を結んでいるキールから赤井経由で情報を受け取っていて、組織の大事に向けて準備を整えているところなのかもしれません。お茶会の取引やメアリーとの接触で新たな同盟関係を結び、「組織の大事=RUM編のクライマックス」に向けたコナンチームが出来上がるのが楽しみでワクワクしています!! そして務武さんはいずこに…

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