『若狭留美 過去の物語(0 to 20)』第一章
*はじめに*
・この記事では若狭留美の過去(出生から羽田浩司殺人事件まで)を考察していきます。ただし形式が今までのように論理的に説明をしていく「論説形式」ではありません。今回の考察はミステリー小説のような物語を通して自分の考察を感じ取っていただく、いわば「小説形式」の考察です。直接的に考察を表現していく論説形式の考察と異なり間接的に考察を表現していくため、考察の焦点が不明瞭になってしまうというデメリットもありますが、物語という形式でしか表現できない登場人物の感情・価値観・人間関係の変化を表現できるというメリットもあります。今回はその点を特に意識して描いているで、是非注目してみてください!
・本ストーリーは三つの章で構成されており、全十話の話が全て繋がったミステリー小説形式になっています。所々オリジナルストーリーを組み込んではいますが、コナンの世界観を前提としたうえで原作のネタ・伏線・考察要素を随所に散りばめているので、是非探してみてください!笑
・第一章(第一話~第四話)は「若狭留美の人格形成」、第二章(第五話~第七話)は「羽田浩司殺人事件前編」、第三章(第八話~第十話)は「羽田浩司殺人事件後編」をテーマにしています。第一章は原作でもヒントが少なく、オリジナルストーリーを組み込んでいますが、その後の第二章・第三章に直結してくる細かい伏線をたくさん織り交ぜています。(2020年)10/28~11/24まで3日置きに一話更新していく予定です。
・新しい試みなので感想・意見・要望等いただけると嬉しいです。今後の参考にさせていただきます。
第一章 創始
第一話「異端」 〜金の卵〜
今から37年前、後に組織の運命を大きく左右する金の卵が産声をあげる。若狭はある組織のメンバーとの間に生まれた女の子だった。彼女は乳児期の頃から記憶面の成長が著しく言葉や数字を覚えるのがとても早かったため、組織で将来を有望視された人材だけが門をくぐることを許される特別学校のクラスFへと6歳で参入することになる。
組織の特別学校は上からA,B,C,D,E,Fと6段階に分かれており、一年間自分のいるクラスであらゆる分野の英才教育を受けたのちに進級テストを受け、ノルマ以上の点数なら一つ上のクラスへ進むことができるが、ノルマ未満の点数なら元の階級のままである。特別クラスの許容年齢は6〜15歳でありそれ以上の年齢を迎えたものは自動的に破門されるシステムになっている(その年になる新年度になった時点で破門)。ちなみにこの学校では階級のランクが絶対であり、一度でも下のものが上のものに逆らった場合も破門されることになっている。若狭はこのシステムに大きな影響を受けたうちの一人である。特別学校の風紀が生み出す「能力主義・権力主義」という価値観を若狭は幼い時から徹底的に脳内に叩き込こまれたのだった。しかしそれは同時に若狭の学習意欲を強烈に駆り立てていた。
特別クラスで学習する分野は自然科学(理系)や人間科学(文系)にとどまらず、格闘術や芸術関係まであらゆる分野の能力を強化するための厳しい英才教育がなされた。しかし天賦の才能に恵まれていた若狭はその厳しい英才教育を易々と乗り越えていき、あらゆる分野の実力を習得していく。若狭はクラスE、クラスDへと駆け上がっていくなかで徐々にその頭角を表していき、クラスでも存在感を出し始めていた。そして11歳のとき最短でクラスAへ到達、その実力は組織の教育機関を超えて幹部の方にもその噂が轟いていた。
〇〇○「教育部門からの報告です。今年クラスAへの進級試験を最年少で突破した例の小娘ですが…過去5回の進級試験を全て歴代トップの成績で通過したみたいですよ。」
〇〇「ほぉ〜、それは興味深い話だ。その少女の将来を楽しみに待つとしましょう。引き続き進展があれば報告しなさい、〇〇〇」
〇〇○「承知しました。〇〇」
〇〇「フン…(歴代トップ…面白い…)」
月日が経ち春の匂いが漂い始めた頃、予定通り12歳の若狭はクラスA最後の卒業試験を受けることになるのだが、試験前日にとある事件が起こすのであった…
実はAクラスの卒業試験を突破すると卓越した分野に応じて3年間専門分野を極めるエリートクラスへと配属されるシステムになっているが、実は毎年Aクラスをトップの成績で通過したものだけは超エリートクラスへ配属されることが学校内でも密かに噂になっていた。その道に進んだものは専門分野の学習よりも実践的能力を強化する厳しい訓練が主に行われる。そのためすぐに戦力として認められ、組織の任務(仕事)に参加出来ることが知られていた。試験を通過するか否かは全て絶対評価なので個人の能力にのみ依存するが、その一枠だけは相対評価。その影響でクラスAのメンバーが受ける最後の卒業試験だけは他クラスの進級試験よりも熾烈な戦いが起こることが学内では周知の事実だった…そして中には自身がトップを勝ち取るために非道な手段に走るものも…。
そんな凌ぎを削るクラスAのメンバーには今回の試験に特別な想いを抱いている15歳の少年がいた。同級生の何人かには既に知られていることだが、彼がクラスAの卒業試験を受けるのは実は3度目だった。彼は7歳でFクラスに入学してから5回の進級試験を全て一発で通過して12歳のときAクラスに参入した強者の一人。非常に頭の切れる少年で特に学問分野と芸術分野は特別学校でも若狭に匹敵するほどの猛者だったのである。しかし彼には唯一欠点があった。武術能力は並大抵の実力しかなかったのだ。ただノルマを達成すればよかった進級試験では問題はなかったが、卒業試験のトップを狙う彼にとってその汚点がコンプレックスになっていたのだ。だから彼は13,14歳のとき卒業試験を合格していたが、教室に張り出される紙で自分がトップではないことを知るや否や、卒業申請を辞退したのだった。その後Aクラスで3年間必死に努力を積んだ彼は見事にそのコンプレックスを克服し、優秀な武術力を身につけていた。彼はこのラストチャンスで必ず超エリートクラスへの切符を手に入れて見せると誰よりも意気込んでいた、唯一の不安要素を抱きながらも…
その一方で若狭は卒業試験や超エリートクラスのことなど全く眼中になかった。それよりも彼女が熱中していたのは10歳のとき進級試験の最優秀賞で授与されたパソコンである。特に彼女はハッキングにはまっていた。自身の知能を最大限活用して隠された秘密を盗み見るという行為に彼女は悦楽と達成感を抱いていたのだ。いかにして相手のプログラムの弱点(=脆弱性)を見つけ出し、その盲点に風穴を開け内部へと侵入し、相手に気づかれることなく相手の懐へと忍び込む。彼女の知的興奮を刺激するには十分すぎるゲームだっだ。
クラスAの卒業試験二日前のことだった。そんな彼女の元に例の少年からメールが来る。
少年『テストの前に君に教えてもらいたい部分があるんだ。明日授業が終わったあとの放課後18時にクラスAの理科室に来てくれないか』
若狭はしばらくパソコンを操作したのち少年の希望を承諾し、笑みを浮かべながらメールの返信をした。
若狭『了解』
次の日、すなわち卒業試験の前日に若狭は少年に言われた通り18時に薄暗い理科室へ赴いた。
少年「やあ、来てくれてありがとう。テスト前日に質問することになってしまって本当に申し訳ないね」
若狭「別に構わない、そもそもつまらないテストなんて眼中にないんでね…」
少年の目が少し鋭くなる。
少年「そんな冗談はよしてくれよ。君が超エリートクラスへの切符を狙っていることは実力を見ていれば僕にもわかるさ」
若狭「…」
少年「それで早速本題なんだけど、聞きたいのはここなんだ。電場と磁場を関係を表す例の式なんだけど、教科書には載ってないんだがどうやらここから光速を導出できるとい先生が言っていたんだ。どうすればいいかわかるかい?」
若狭「マクスウェル方程式か…経験はないが考えれば10分程度で解ける問題だな…」
少年「ほんとに?じゃあこのノートでいいから考えてみてよ」
少年は若狭に自分のシャーペンを渡す。若狭は時々考えるような仕草を見せながらもノートに導出過程を書いていく。少年は時々ペンを置いて右手を口に添える彼女の姿をマジマジと見ていた。
そして10分後、若狭が宣言通り導出過程を書き終えたところでかすかな笑みを浮かべていた少年は若狭に導出過程を質問する。若狭は淡々と次のように説明していった。
若狭「簡単に言えばこのようにマクスウェル方程式をそれぞれ代入していき、波動方程式の形に帰着させればよい」
少年「なるほど!たしかにそれなら光速が定数のみを用いて表現出来るというわけかぁ。ほんとさすがだね!」
若狭「……」
少年「ありがとう!質問を聞いてくれたお礼に今日は僕が奢るよ。といってもいつもの通り食堂になっちゃうけどいいかな?好きなものいくらでも注文してよ!」
若狭「フフフッ…ああ少し早いが夕食にするか……私がなにを食べようと私の体内にジスチグミン臭化物が混入されることはないからな…」
少年は凍りつくような表情を一瞬せるがすぐに平静を装って
少年「え?…な、何を言ってるんだよ」
若狭「そもそもプライドの高いお前が私に質問すること自体おかしな話だ。どうせ何か裏があるんだろうと思って調べさせてもらったよ…」
少年「調べたって何をだよ?昨日君が僕の部屋に侵入して何かを調べたとでもいのかい?僕は授業が終わってすぐに自室で試験勉強をしていた。部屋を出る時はいつまロックをかけてるし。君がそんな探偵みたいなことできるはずがないだろ!」
若狭「クククッ、馬鹿だなお前は…。お前のことを調べるのなんて造作もなかったよ。実につまらなかった…。お前が昨日送っていたメールのアドレスからお前のパソコンをハッキングして、内情を探ってやったんだよ。お前が隠してあった計画書っていうファイルを盗み見ていたから、君の行動は全て読めていたよ」
少年「ハッキングだと!?そ、そんなもの授業でまだ習ってないじゃないか。そんなの嘘だ!第一、僕はそんなもの持ってないぞ。デタラメ言うな」
若狭「一昨日化学の授業で使用したジスチグミン臭化物をくすねて、粉末状にしたらシャーペンのグリップに目だたくなるまで塗り込む。あとは人気のない時間に理科室へと私を呼び出し、授業でも扱ってない未習の問題を私に教えてくれといって解かせる。そして私が考えるときに右手の人差し指を下唇の上に乗せる癖を利用してシャーペンのグリップ部分から私の唇に毒が付着するよう誘導する。そして私が問題を解けたといったら、お礼に奢ると提案して夕食を食べさせ、毒を確実に体内へと導く。そうすれば私が体調を崩しても食堂の責任だと思わせることができてお前は何の罪にも問われないし、私に試験を受けれない状態にできる…という算段だったみたいだな」
少年「まさか本当に…、おれのパソコンの中に侵入したというのか…」
若狭「ああ」
少年「いやちょっと待てよ!おれはお前をずっと見ていたが、右手人差し指でグリップに触れたあと何度も下唇に触れていたじゃないか!おれの計画書を見ていてなんで!?」
若狭「…つかない工夫をしていたとしたら?」
少年「なに?」
若狭「…ゴムだよ。お前がグリップ部分につけていたゴムをすり替えといたのさ、お前が今日化学の授業後先生に熱心に質問している間にな。シャーペンごと別のものに取り替えればお前に気づかれる恐れもあったが、もともとお前が私に違和感を悟られぬように細工していたゴムだ。お前も気づかなかったんだろうな、ゴムが別のものに変わっていたことを…」
少年は驚き絶句した…そして
少年「じゃ…じゃあ、お、お前なんのためにそこまでして言われた通り理科室に来たんだよ!?」
若狭「フハハハハ!、それは決まってるだろ。お前のその顔が見たかったんだよ。完璧な策を立てていたはずがその策を見破られた上に裏を書かれ策を封じられていた知った時、人間がどんな表情をするか、それに興味があったんだよ。中々見れるもんじゃないさ…。いやしかし、君のあの意表を突かれたときの唖然とした表情は格別だったよ。私の脳に快感を与えるには十分なものだった。こんな機会を用意してくれて感謝してるよ…」
若狭の狂気じみた発言に少年は恐怖を感じ始める。
少年「お、お、お前は一体…」
若狭「そういえばあと一つ大事なことを言い忘れてた。お前のパソコンのセキュリティレベルは低すぎる。あんなの四則演算レベルだ。次ハッキングする時までにはせめて因数分解レベルくらいには工夫してくれないと困るねぇ。何ら刺激も得られないつまらないことは嫌いな性分なんでね」
若狭が言い終えると少年はビクビク震えながらも、突然携えていたバックからナイフを出して左手で若狭の顔へ突きつけ激昂した。
少年「ふ、ふざけんな!お前にそんな指図される筋合いなんてねーんだよ!おれはな…明日の卒業試験のために三年もかけて死ぬ気で努力してきたんだ…コンプレックスだった武術も克服した。お前が!…お前だけが!…唯一の不安分子なんだよ!…おれの夢の邪魔をするな!!」
若狭「…」
少年「安心しろ!殺しはしない…そのかわり、明日の卒業試験は休むと約束しろ!…これは最後の警告だ!ここで約束するならば許してやる…」
若狭「…フフフ」
少年「な、なにがおかしい!?」
若狭「なら刺せよ」
少年「……!」
若狭「私が邪魔なんだろ?なら刺せよ」
少年が恐怖に慄きナイフをもった左手がさらに震えだしたその時、若狭が右手でナイフを持っている少年の左手をとてつもない力で掴んで震えを抑え込んだ。
若狭「ほら、なにびびってんだよ」
少年の顔がどんどん青ざめていく。
若狭は自らナイフの刃を自分の鼻先まで近づけたところで、少年の左手を握りながら若狭がゆっくりと尋ね始めた。
若狭「刺せよ、刺してみろよ、なんなら私が手伝ってやろうか…?」
といったその瞬間、ボキッっという音とともにナイフが床に落ち、少年の悲鳴が理科室中に響き渡った。
去り際に若狭が吐き捨てる。
若狭「安心しろ…ハッキングして手に入れたあの計画書のファイルは指導員にも送らないでやるよ」
若狭「お互い明日の試験頑張ろうね…フフッ」
試験当日その少年は一身上の都合で試験を受験せず、15歳の年齢制限を逸脱したため特別学校を破門になった。今回こそはトップを取ると誰よりも意気込んでいた少年が卒業試験を受けなかったことにクラスAのほぼ全ての学徒が不思議がっていた…たった一人を除いて。
その数日後、学校中を大きなニュースが駆け巡った。『史上初!卒業試験満点合格者が現れた!!』と。もちろん彼女はまだそのことを知らない。
(続く)
【次回予告(10/31投稿予定)】
恐るべし若狭留美の少女時代!次に彼女が築く伝説とは…?今は亡き〇〇○が登場!若狭との頭脳戦が幕を開ける…
第二話「反骨」 〜小さき怪人〜
特別学校クラスAの卒業試験を史上初満点で通過した若狭は、一般的な卒業生が進むエリートコースの道ではなく超優秀な人材のみが集う超エリートコースを歩むことになったのだった。
しかしそのクラスは烏丸グループの正式な教育組織図のどこにも掲載されていない。一般的な学徒はその存在を噂で聞く程度で本当にそんなクラスが存在するのかすら知らない都市伝説のような集団である。そんな謎に包まれた超エリートクラスは組織では存在すら伏せられたクラスという特徴から「クラス0(ゼロ)」と名付けられている。
〜クラス0〜
クラス0の扉が静かに開き、未来を超有望視された十人の精鋭達の前に一人の男が現れる。
○○○「ようこそ諸君達!歓迎しよう!クラス0に。…待ち焦がれていたよ、君たちと会えるのを…。君たちも特別学校時代に一度は噂で耳にしたことはあると思うが、このクラスは特別学校のクラスAの最後に行われる卒業試験でトップの成績を取ったものだけで構成された超エリートクラスだ」
若狭「……(なるほど、つまり私が通わされていた特別学校以外にも同じシステムをもった9つの特別学校が存在したというわけか…)」
男の言葉から組織の人材育成システムの全体像を瞬時に理解すると同時に、自分が一番だと証明されたわけではなかったことを知った十人の精鋭達はお互いの顔を見合わせ、早くも火花を散らつかせる。
〇〇○「君たちは選ばれし十人だ。世間で言うヘッドハンティングというものに値する、君たちは自らの実力を十分認められたということだよ。その誇りを胸に抱き、このクラスでの実働訓練に励んでいただきたい。君たちはとても優秀だがまだ実践的経験が浅く、この先に何が待ち受けているのか知る由もないだろうから一つ助言をしておこう、いわばこのクラスは『出世への裏ルート』だ。このクラス0を通過すれば、君たちには特別な階級が与えられる。それは君たちがより多くの道具を自由自在に操れる権利を有すると言うことに他ならない…」
一人の学徒が男の話を遮る。
若狭「なぁ、あんたさっきから偉そうに出世だの権利だの話してるけどさぁ、そもそも誰だよお前」
○○○「フッフッフ、噂で聞いていた通り困った小娘だ。しかし私も自己紹介を失念していたことは事実だ、失礼した。私が何者か述べるとしよう。私は我々組織の教育部門人材育成課の責任者だ。まあ組織ではこう呼ばれているよ…『ピスコ』…とね」ピスコの口元がニヤつく。
若狭「…!!!(コードネーム!)」
超エリート軍全員の顔つきと目つきが一気に変わり始める。
若狭「(特別学校時代にそこそこ優秀な指導員がデータ解析の時に言っていたが…
〜回想・始まり〜
指導員『コードといえばな…実はこの組織では優秀な幹部になれば、コードネームが与えられるっていう噂を聞いたことがあるぞ。しかもそれは決まって酒の名前らしいんだ…。お前のその実力ならそこまで辿り着けるかもしれんな、お前は我々の希望の星だ!頑張れよ!』
〜回想・終了〜
若狭「酒の名前というのは半信半疑だったがやつの言うことはどうやら本当だったようだな…コードネームをもった幹部『ピスコ』!!…おもしれぇじゃねえか……)」
ピスコ「それでは、三年間優秀な指導員の元で実働訓練に励んでくれたまえ、よろしく頼むよ諸君達」
そう言い終えるとピスコは教室の外に消えていった。
ピスコ「…(ダイヤモンドはダイヤモンドでしか磨けない…さあ互いに切磋琢磨し給え…我々を心酔させる最高の輝きを放った逸材が生まれることを楽しみに待つとしよう…)」
その日から若狭を含めた超エリート軍団の十人はクラス0で仕事(任務)のために実践的な能力を磨き始めることとなった。特別学校は武術などを除けば理論面のインプットが中心であったのに対し、クラス0では脳内に蓄積した情報や科学的思考法を用いてどのように行動していくか、すなわち実践面のアウトプットを極める活動がメインとなっていた。若狭にとってそれは特別学校時代のただ情報を正確に記憶し、それらを正確に組み合わせるだけのつまらない『ゲーム』がより複雑な要素が絡まり合う深い『ゲーム』へと変化したことを意味した。さらにクラス0へ所属したことで自分と同次元のコミュニケーションが通ずる学徒達が周りにいるという環境や、初回の授業でのみ現れた一人のコードネームをもった「ピスコ」という影の存在が彼女の知的興奮をさらに駆り立てていくこととなったのだった。
そうして実働訓練にのめり込んだ若狭は組織の任務理念を深く理解した上で、実務に必要なほぼ全ての手段をわずか一年でマスターしていた。
若狭が13歳の春を迎えた頃のことである。クラス0での訓練が二年目に突入した直後、クラス0で前代未聞の事件が起こる。
〜回想・始まり〜
指導員「撃て!」
パァン、パァン、パァン…というけたたましい音と夥しい煙が吹き荒れるなか、銃弾が的の真ん中に連続で命中していく。
指導員「……ん?9発?、おい誰だ!発砲しなかった奴が一人いるだろ!!正直に名乗り出ろ!!名乗り出れば不問に付す」
学徒A「あ、あの…指導員」
指導員「ん?、なんだお前か!?」
学徒A「いえ、そうではなくて…し、指導員の後ろに…」
指導員「なんだ?」
そう言って指導員が後ろを振り返った瞬間、若狭が指導員の額に銃口を突き出す。
指導員「!!…お、お前、何をしている…」
若狭「ハッハッハ…見ればわかるだろ、お前の脳天に弾丸をぶちこんで風穴を開けてやろうとしてるんだよ」
指導員「フフフ、お前は確か特別学校No.2の卒業生…なにやら卒業試験を史上初満点でクリアした猛者らしいな…話には聞いていたが生意気な小娘だ」
卒業試験満点という言葉を聞いたクラス0の他の学徒達の目の色がさらに変わりはじめる。
指導員「ただなぁ、お前は立場というものがわかっていない…。いくらお前がそこまで優秀だからといってこんな行動が許されるわけがない、我々組織は縦社会だ。何が目的か知らんがお前がトリガーを引けばお前は暴徒化した輩とみなされ間違いなく処刑される。特別学校で散々叩き込まれただろう?」
若狭「クックック…権力主義とかいうあの下らないシステムか…幼い輩を刺激するには十分なエサだが、眼が育てばあんなのはただのつまらないバッチにしか映らない。そんなもので私を止めようとしても無駄だ…このクソつまらない訓練をお前を殺すことで強制的に終わらせてやる、10,9,8,7,6,5,…」
指導員「止めろ!お前らこいつを止めろ!」
しかし学徒は若狭の狂気的オーラに圧倒されて動けない。
若狭「3,2,1…」
パァン……しばらくの沈黙が続いた後
若狭「ハッハッハッハ!!いい!いい表情だ!!その死に顔が拝めて久しぶりに興奮が得られた。権威主義だと…?笑わせるな、お前は心底馬鹿な奴だな!よく的を見てみろよ…一つ前に発砲した位置と全く同じ所に命中させてっから実弾が発射されないように見えてるだけだろ、そんなことにも気づけない指導員なんていらねーんだよ」
若狭はそう吐き捨てると拳術を投げ捨て一人去っていった。
〜回想・終〜
若狭が銃殺用の道具「拳銃」の訓練中に指導員に対して突然銃を向けて発砲したのである。しかし中に玉は入っておらず、引き金を引くと同時に左ポケットに仕掛けていた爆発音がなるようにセットしていたただの悪戯だった。一年目までは誰よりも真面目で熱心に実働訓練をこなしていた若狭だっただけに、二年目に入り突然狂気じみた行動を取ったことに驚きと怒りを隠せなかった指導員はそれを教室長に問題行動として報告したのだった。
指導員から手に負えないという報告を受けたピスコは後日若狭を教室長室に呼び出した。
ガチャ、若狭が教室長のドアを開ける。
ピスコ「ほう、素直に呼びかけに従うとは。来てくれないんじゃないかなと懸念していたところだよ。さあ、腰かけたまえ?」
若狭は言われた通り、席に座る。
若狭「コードネームをもった幹部の部屋ってのがどうなってるのか興味があったんでね」
ピスコの目を一斎見ずに机の上に置かれた巨大なコンピュータや煙草の灰皿などを見つめていた若狭に対し、ため息まじりピスコは語りかける。
ピスコ「一年目の君の成績は私の耳にも届いていたよ。驚異的な速さで技術をマスターしていき、クラス0の実力者でさえ本来なら三年間で習得する幅広い道具を使いこなすレベルまで達していると。さすが卒業試験で史上初の満点を叩き出した猛者だ。去年度の君は束の間の休み時間さえも訓練にいそしむほど真剣に取り組んでいた、クラス0でもまさに模範的態度を取っていたというじゃないか」
若狭「…」
ピスコ「それが二年目に突入した途端訓練中に指導員へ発砲とは…どういう変わりようだね。そこで私なりに君のことを推理してみたんだがね…ひょっとして君は一年目で頑張りすぎたために馬力が続かず、毒殺訓練用に用いる道具を保管している薬物倉庫からコカインでもくすねてたしなんでいたんじゃないのかね?」
若狭「…」
ピスコ「おや、どうやら図星のようじゃないか。…しかし大丈夫だ、心配はいらない。正直に認めれば、君の去年の功績に免じて本来は罰則処分のところを特別に厳重注意ということに私が計らって差し上げようと思うのだがどうだい?」
ピスコの言葉に対してようやく若狭が口を開く。
若狭「ハッハッハッハ!!」
ピスコ「どうした?なにがおかしい…」
若狭「組成式はC17H21NO4。コカノキ科コカの葉から得られるアルカロイドで局所麻酔作用を持つ無色無臭の柱状結晶。中枢神経に作用して快楽の伝達物質であるドーパミンの再吸収を阻害するため精神を高揚させる働きを持つ一方で、持続時間が短いため禁断症状が起こりやすく精神的依存性が強い。乱用すれば副交感神経が働かなくなり、中枢神経並びにあらゆる臓器に悪影響を及ぼし最終的には呼吸困難で死に至ることもある麻薬だろ?命を削ってまで精神的快感を得ようなんて狂ったことを私がやると思うか?平和な日常に嫌気がさし命を削ってまで精神的高揚を得ていたどっかの探偵とは違うので」
ピスコ「ほぉー、それは失礼。ではなんで実務訓練中に指導員へ空砲を撃つなんて狂気じみたことをしたのかな?君は今狂ったことはしないと言ったがこの行動は十分狂っていると明言するに足る行為だと思うが…」
若狭「狂気でもなんでもねーよ。その部分はシャーロックホームズと本質的には変わらない。訓練が退屈だった、ただそれだけのことだ」
ピスコ「!……(この小娘……自分がやっていることの異常さを理解してないのか…)」
ピスコ「君はなにか勘違いしているようだ。たしかに君はトップクラスの中でも抜群の成績を残していることは認めよう。しかしあくまで君がやっているのは訓練。本番の仕事(任務)とは異なる。初回の授業でも教わっただだろう?『失敗は死あるのみ』…とね。訓練ではいくら失敗しても許されるが、任務ではたった一度の失敗すら許されない。だからこそ毎回の訓練の中で同士達と切磋琢磨してテクニックを磨き続けることには大きな意味がある、そこに限界はないのだから。君にはその認識が足りない。わかったかな?」
若狭「ククク……さっきから勘違いしているのはお前の方だ、ピスコさん。ピスコ!お前にとっては訓練での成功と本番での成功は別物なのかもしれない…だがな私はお前と違って訓練で成功することと本番で成功するのとは同義なんだよ!それにテクニックを究めるのに限界はないだと…フフッ、笑わせるな。テクニックを完璧に習得したものにとってそれ以上追い求めるものは何もない。コードネームをもった幹部だとかいうから多少は興味をもって来てやったが、ただのつまらない奴だったな。ここの幹部ってのも大したことないねぇ」
その言葉を聞いてついに堪忍袋の緒が切れたピスコは激昂し、若狭の胸ぐらを左手で力強く掴んで次のように言い放った。
ピスコ「お前!何様のつもりだ!!!クラスAの卒業試験を初めて満点で通過し、クラス0へ配属されたくらいの分際で大口叩きやがって!!訓練中に指導員を挑発した上に、私にまでも口答えをして喧嘩を売るとは…大した度胸だねぇ、お嬢ちゃん。噂には聞いていたが想像以上に生意気な小娘だ…。お前は我々を舐めすぎている。立場というものを思い知らせなければならないようだな」
そう言い終えるとピスコは懐から拳術を取り出し、拳術の銃口を若狭の額に当てた。
ピスコ「お前を生かすも殺すもその主導権は責任者の私にある…。ラストチャンスだ…。約束してくれるかな?これからは敬意をもって立場をわきまえた行動をとるとね…」
若狭「クククッ…」
ピスコ「?」
若狭「撃てよ!撃ってみろよ!!」
ピスコ「!!……(こいつ…)」
若狭「ほら早くやれよ!なんなら私が手伝ってやろうか?」
ピスコがその言葉に怒り狂い引き金を引こうとしたその時、どこからか機械音のような声が響き渡る。
〇〇「待て……」
若狭「!?」
ピスコ「なに!?…まさか……でもなぜあなたがここに…」
〇〇「下がりなさい、ピスコ」
ピスコ「くっ!………」
ピスコは胸ぐらを掴んでいた手を渋々離し、拳術を降ろして席に戻る。
〇〇「『訓練での成功と本番での成功は同義』『コードネームをもった幹部も大したことない』か…中々面白いことを言う子娘じゃないか…とても13歳とは思えない度胸だ…しかもその言葉…どうやら君の本心のようだしな」
若さ「本心もなにも、それが真実だからな…それより誰だお前は。ピスコよりも偉い分際であることは確かみたいだが。どこに隠れている…隠れてないで面を見せてみろよ」
〇〇「フッフッフ………『本心ではなく真実』か……………それなら、君のその手をもってそのことを証明してくれないか……」
ピスコ「そ、それは…どういう…」
〇〇「ピスコ、君も自分の立場を侮辱されてこの生意気な子娘に抑えきれない憤りを覚えているのだろう………それならその口を封じるのではなく、君もその手で彼女に実力を見せつけ証明してくれ『コードネームをもった幹部に学徒はかなわない』とね」
若狭「ほぉ〜面白い……つまり実力で蹴りをつけようということか……」
ピスコ「しかし…証明と言われましてもどうやって……」
〇〇「ちょうど幹部へ指示しようと思っていたある任務がある。その任務を先に成功させたものをこの争いの勝者とする」
若狭「任務とは何だ?」
〇〇「任務は衆議院議員『野間口重彦』の暗殺」
若狭「野間口?」
ピスコ「東大法学部卒のエリートで時代の逸した斬新なアイデアとユーモア溢れる博識さから民衆の支持を得て十年近く前に初当選したっきり衆議院議員として活躍の場を広げている男だ。政界での巧みな立ち回りから最近はますます存在感と発言力が増している」
〇〇「そう、著名人ということもあって通常はコードネームをもった幹部が担当するような比較的難易度が高い任務。さすがに今回初めて仕事をする君には不可能な案件かな?」
若狭「いや上等だ!やってやろうじゃねえか、こいつよりも早く任務を成功してやるよ」
ピスコ「フン、任務経験もないお前になにが出来る。せいぜい頑張りたまえ…まあせめて私の動きを観察して任務の初歩くらい学ぶんだな…」
〇〇「フフフ。彼女には今回特別に任務用の道具を自由に使う権利を与えよう。それと勝負がつくまでクラス0.は欠席していてよい。ではピスコ、彼女に保管庫の鍵を渡しなさい」
ピスコ「……かしこまりました」
ピスコは任務用の道具を保管している倉庫の鍵一式を若狭に投げつける。それを受け取った若狭はニヤけながらピスコへ鋭い眼光を向ける。
〇〇「それでは…私は遠くからこの勝負の行く末を見させていただくよ…私を楽しませてくれたまえ諸君達」
ピスコ「了解」
若狭「りょーかい」
〇〇「…(さあ、お手並拝見といこうか……小さき怪人よ…)」
(続く)
【次回予告(11/3投稿予定)】
突如開幕した若狭vs.ピスコの頭脳戦!それぞれの思惑が交錯していき、勝負は最終決戦へと突入!!果たして勝利は誰の手に…?
第三話「孤高」〜Black Birthday〜
〇〇の計らいにより組織の任務を競う形で突如として幕を開けた若狭とピスコの頭脳戦…二人はそれぞれの自室で任務遂行に向け、日夜策謀に明け暮れていた。
[4/29]
ピスコ(若狭)「(任務の鉄則は『影のように忍び寄り、霧のように消え失せる』こと…)」
若狭(ピスコ)「(すなわち『人知れず標的へと近づき一瞬で仕留めたのち、刹那のうちに痕跡を残さず立ち去る』こと…)」
ピスコ(若狭)「(攻防ともに圧倒する策こそ我々の手法…)」
若狭(ピスコ)「(その策の優劣を左右する最も重要な要素こそが…)」
ピスコ(若狭)「(標的周辺の情報量…)」
若狭(ピスコ)「(まずはいかにして情報を集め、標的のウィークポイントを見出すか…)」
ピスコ(若狭)「(それが任務のスタートライン…だったな)」
〜若狭留美の自室〜
若狭はウェブ上で公開された日売テレビの報道映像を見ていた。
若狭「(こいつが野間口か……ボディーガードが四人もいやがるな…さすが元弁護士出身の有力国会議員だ…守りにも抜かりないというわけか。この移動時に奴を殺るなら頭上から狙うしかないが、狙撃銃の使い方は大体わかるが訓練経験がないからな…生兵法は大怪我の元というしここは別のウィークポイントを探った方がいいか…)」
若狭はその動画サイトの情報欄を開き「野間口議員のWebアカウントはこちら!」とかかれたリンクをクリックした。
〜プロフィール〜
名前・年齢|野間口重彦(56歳)
経歴|東大法学部法科大学院卒
職業|元弁護士・現職衆議院議員
プロフィール|弁護士時代に目の当たりにしてきた国民が抱える痛み・苦しみ・願い・希望を国政へと反映し、社会の歪みを矯正したいと考えております。応援よろしくお願い致します。
アドレス|お仕事のの依頼(取材・報道)はこちら→~~~
若狭「(市民の声が気軽に届くよう情報サービスを政治活動に取り入れているようだな。フッ…市民からの支持なくして立つことが許されざる世界…そのためには率先して自分の情報を売り出す必要がある。ウェブ上の住所に値するメールアドレスさえもというわけだな…」
〜ベイカ自動車・会長補佐室〜
一方ピスコは会長補佐室で仕事をこなしながら野間口の情報を集めていた。
ピスコ「(公務で外出する際は自衛隊上がりのボディーガードが奴の四方を固めている。すなわち公務外出中で唯一奴を遠くから狙える方向は『頭上』のみ…。しかし視力も腕も衰えきた私の狙撃ではリスクが高い。今回の任務は単独で実行しなければならないため逃走リスクがいつもより高い上、一発で仕留められなければ更なる警戒を誘発してしまい、益々防御が硬くなってしまう…。やはり攻防に適した策を講じるには公務以外の機会を狙うしかないか…)」
コンコン
ピスコ「はい、どうぞ」
ガチャ
専務「失礼します。先ほどの件なんですが無事会長から許可頂きました」
ピスコ「おお、そうか。それは吉報だ、ご苦労…」
[4/30]
〜パーティ会場〜
ピスコは会長の代わりに政界・財界の著名人が集まる交流会に出向いていた。
ピスコ「これは奇遇だ。こんな所でお会い出来るとは光栄ですよ、野間口先生」
野間口「おぉ〜これはこれは随分とご無沙汰しておりました。ベイカ自動車会長補佐役の枡山さん。いつもお世話になっております」
ピスコ「いえいえ、先生のご活躍に一役買わせていただいている我々の方こそお世話になっておりますよ」
野間口「それは恐縮です」
ピスコ「ところで野間口先生、少し無理をしすぎているのではないでしょうか。前にお会いさせていただいた時よりも少し痩せたのでは?」
野間口「いや〜お恥ずかしい話だ。歳も重なりもう56になり、弁護士時代ほどの体力はなくなってきましてね。10年近く議員生活をしていく中でようやく国会活動と地元活動を両立するのに慣れてきたというのに、時の流れには人間誰しも抗えませんな」
ピスコ「ハッハッハッ、おっしゃる通りです先生。私も最近は目に衰えを感じていますよ。…しかし先生、年齢のこともありますし、無理は身体に毒です。ゴールデンウィークも近いですし一緒に温泉旅館でも行って羽を伸ばしませんか先生」
野間口「その誘いはとても嬉しいが、ゴールデンウィークは世間の皆が羽を伸ばせる時期だからこそ地元活動が盛んになる時期なんだ。だから私達議員にとっちゃゴールデンウィークというよりブラックウィークとでもいうべきかもしれないね笑」
ピスコ「ハッハッハ、それは…お忙しいですね…」
野間口「いやすまないねぇ、ちょっと重苦しい話になっちゃって。酒が不味くなる前にこの話はやめにしようか枡山さん」
ピスコ「ええ…」
秘書「野間口先生、5/4の新幹線のチケット3席貸切でお取りしておきましたよ」
野間口「おお、そうそうかありがとう」
ピスコ「おや?先生の地元選挙区域は杯戸町周辺だったはずでは?新幹線を用いる必要はありませんよね?」
秘書「あっ!すいません…野間口先生」
野間口「いやいや君が気にすることはないさ。元々私が無理に頼んだことなんだから」
ピスコ「といいますと?」
野間口「さすが枡山さんだ、私の発言の矛盾点にすぐさま気づくとは…私よりも10歳歳が低いというのに会長補佐役を任ぜられるだけのことはある…。実はここだけの話なんだがね、5/4は娘の20歳の誕生日で成人記念パーティーを催すことになってるんだが、どうしてもそのパーティーに出席したくて秘書に無理を言って手配してもらっているところなんだよ」
ピスコ「娘さんの20歳の誕生日ですか…それはおめでたいですがなぜ新幹線を?先生のご実家は東京のはずでは?」
野間口「ああそうなんだ。最初は私も諦めようと思ったんだが、私が弁護士時代から私の元で頑張ってくれてるこの優秀な秘書が妙策を思案してくれたんだ。私はいつも国家公務員に手配される例のマンションで寝食をとってるのだが、あそこは収賄疑惑があるとか難癖つけるマスコミにマークされてるし、実家の住所もバレてしまっているんだよ。しかし私の秘書が浜松に別荘を持っていてね。今は空き家で誰も使っていないんだが、5/4の地元活動は予め録音したテープを用いて身代わりに任せてマスコミをはめて、本物の私は極秘にその別荘地へと足を運び娘の誕生日を祝ってはどうかと提案するもんだからね〜たまげたよ。まさかそんな素晴らしい作戦があるとは、政界切っての頭脳戦好きと自負してる私でも驚いた」
秘書「長年お世話になってきた先生のためですから、こんなの容易いものですよ」
先ほどまで浮かない顔してしたピスコが笑顔になり始める。
ピスコ「感服致しました!先生は実に素晴らしい部下を持っていらっしゃる…秘書の助けを借りながらも国会活動に地元活動にプライベートの私的活動、まさに三足のわらじを使い分けているとは…その立ち回りで政界を幾度も沸かせてきた野間口先生の巧みさが如実に現れた作戦じゃありませんか!私も公私両立バランスを考えねばと気づかされましたよ」
野間口「いや実はそうではないんだ…。あれからもう10年近くなるか…。弁護士時代の話だ。いわゆる法曹界でベテランと言われる年代にさしかかったころ工場から廃棄された有毒物質の被害にあった被害者の会の担当弁護人を無償で請負い、国と戦ったんだ。私は最大限尽力したが、結果は敗訴だった。こんなにも苦しんでいる人々がいるのに誰一人として自分は救うことができない…自分の無力さを味わったんだ。それでこれを機に弁護士を引退して大学の客員教授のポストでも探そうと思っていた。そしたら事務所の解約手続きをする当日にね、被害者の方々が弁護士事務所に押しかけてきてこう言ってくれたんだ。『賠償請求は勝ち取れなかったけど、私たちは先生のおかげであそこまで戦うことが出来た…先生は俺たちのたった一つの大きな希望だった…先生今まで本当にありがとな!』とね。その言葉を受けた時なぜか涙が止まらなくてね、あの時初めて『本気で勝負すればたとえ成功しなくても何かが変わる・何かが決壊する』ってことに気づかされたんだ。それで私は政治家になることを決意したんだよ…法で叶えることが出来なかった人々の思いを今後は国を変えることで叶えるんだってね。だがそれは同時に悪夢の始まりでもあった。被害者の後押しもあって初出馬で初当選して国会議員になることが出来たが、その後国会での議決や法案提出などの国家活動に加え休日も地元の祭りやイベントに参加したりなど地元活動の激務に追われてしまった私は家庭とどんどん疎遠になっていった。さらに私のことをよく思わない連中が実家に脅迫電話かけたりや脅迫文書を送りつけてきたりで妻や娘は強烈なストレスを抱え、もう家庭はボロボロだった。せめて妻と娘は守らなければと思った私はすぐに私だけが高層マンションに移り、それから妻とは別居しどんどん疎遠になっていった…娘とも10年顔を合わせてないんだ」
野間口「だが数日前に何年ぶりだったかな、妻から当然電話がかかってきて何かと思ったら『瑠美の20歳の誕生日会、来られない?』ってね。娘の誕生日会に出席する権利なんて私にはもうないと思って、ぶっきらぼうに『その日は地元活動で無理だ』と言ったら、妻が『瑠美の着物姿どうしても見てほしいのよ。あれから十年瑠美はこんなに立派に育ったんだっていう証をね。…もういいのよ、あなたは悪くないことは私はもちろんのこと、瑠美ももう理解してるのよ…、10年ぶりに家族みんなで再会してもう一度一からやりなおそう』と言われてね…」
秘書「そしてその話を聞いた私が先程述べた策を手配している所という次第です」
ピスコ「それはおめでたい…。娘さんの晴れ姿・奥さんとの再会是非楽しんでください先生…」
野間口「なんか長々と話してしまって悪かったね。じゃあそろそろ私はいくよ」
ピスコ「ええ…(浜松の別荘地か。組織のデータベースで調べれば2,3日もあれば特定できるな…)」
一方その頃若狭は…
〜若狭留美の自室〜
若狭「いや実に面白いパズルだった。さすが国が管理しているデータベースだな。解析にかなり時間はかかったが、無事潜り込めたようだ…。ひとまず野間口の秘書が管理してるスケジュールってやつを見てみるか」
若狭「!(まさかここまでとはな…特別学校で国会議員のスケジュールは分刻みで決まっていると習ったが、本当にここまで詳細に決まっているとはな…)」若狭「(しかも野間口のやつ一年間で休みがほぼない…国会議員にはやはり休日なんてないのか……)
若狭「(しかし困ったな。これだと結局公務中のどこかのタイミングで奴を殺るしかないっていうことになって昨日の計画まで戻らなきゃならないが…」
若狭「(ん……?なんだ?5/4のスケジュールだけ他の日と比べて間隔が妙に広いが………)」
………………
若狭「!(やはりそうか……誕生日……クククッ…こいつは使えるな…)」
カチ、カチ…
[5/1]
〜組織の倉庫〜
若狭「あったあった。これか、組織が開発した新種のプリンターっていうのは。材質がプラスチックになろうが要は強度と形さえあれば問題ない。これで十分だな…」
若狭「あと念のためこいつを二つもってくか。標的は少々切れる策略家だ…守りも徹底しておくとしよう…」
[5/2]
〜幹部室〜
ピスコ「ようやく特定できたか…。今にでも行って下見をしたい所だが3日と4日で休みをもらうために今日は出勤することにしていたからな…。明日すぐにでも下見にいくとするか」
[5/3]
〜別荘地〜
煙草を吸いながらピスコは尾行を気にしつつ別荘地近くまで出向いていた。
ピスコ「(人気の薄い別荘地だ。隠れて何かをやるには打ってつけの場所ってわけか、野間口。とりあえず外装を見る限り手入れをした形跡は見当たらない。空き家だったというのはどうやら本当のようだ…)」
ギィィィ 、ピスコが門を開ける。
ピスコ「(念のため家の構造を確認しておいた方がいいな。おそらく誕生日パーティーを行うのは窓ごしに見えるあのリビングで間違いない。しかし家具などが全然まだおかれてないということは今日か明日に準備に取り掛かるということか。電気メーターもほぼ動いていないみたいだし、換気扇の上にはほこりがたまっている)」
ピスコ「フン(何を焦っている…、あの小娘がここまで辿り着けるはずがないのは明らかだろうが、余計な分析は無用だ…野間口をやるだけのことに集中せねば)」
何枚か写真を隠し撮りし、最後に扉と鍵の形状を写真に撮ろうとした時エンジン音のような音が大きくなっているのを感じたため、ピスコはすぐさま門を出た。その20秒後トラック三台と一台の車が別荘地の門の前に到着した。
若狭「!(……)」
その後…
秘書(電話)「もしもし…そう…それはご苦労様。突然の急用なのに快く受け入れてくれて本当に助かったわ、先生も喜ぶわよ、きっと。…………え?灰?…………ええ、ありがとね…(まさか…)」
野間口(電話)「もしもし、どうしたんだこんな時間に………。え?どうしてだ?……………。そうか…わかった、念には念をというわけだな。ありがとう至急手配しておく」
若狭「5発だな…クククッ…何が正義の花だ…散華するには丁度いい…。そして2年前作ったお前を使うことになるとは思いもしなかったが……本番は0.1°の誤差もなく計算の方は頼んだぞ…」
ピスコ「よし、変装道具の準備も整った。隠れて何かをするための離れ小島としてあそこは最適だが、暗殺の城としてもこの上なく最善だな……。あの小娘の邪魔が入らないかだけが心配だがまあここまで奴が辿り着けているわけがない。この勝負もう結果は見えている…私の圧勝だ、ハッハッハ)」
〇〇「ベルモット、急用を要する」
(続く)
[5/4] Rumi’s birthday
〜別荘地〜
ピンポーン
野間口「はい?」
ピスコ「お届け物です」
野間口「え、誰からですか?」
ピスコ「えーと、栗山桜さんからだそうです」
野間口「私の秘書から?品物名は?」
ピスコ「どうやらプレゼントの類のようです」
野間口「…おおそうだった、秘書から娘へサプライズプレゼントがあるって言っていのを忘れていた。鍵空いてるのでそのまま部屋まで運んでいただけますか?」
ピスコ「承知しました(クククッらここを突破すればもう私の勝ちだ)」
野間口「…」
ガチャ、懐に拳銃を忍ばせたピスコが別荘宅へと侵入していく。リビングへ通ずるドアのガラス越しに人影を確認したピスコが拳銃を懐から出し、銃口を上に向ける形で構える。
ピスコ「(さて始めるか)」
ガチャ、パァン!…ドアを開けると同時にピスコが発砲した。
ピスコ「動くな!」
……………………
……………………
ピスコ「な、なにパーティ中じゃないのか!?………!(まさか…血糊とマネキン!?)」
SP1「そこまでだ!枡山!」
四人のSPがドアから勢いよくリビングに入っていき拳銃をピスコに向け、四方から囲い込む。
ピスコ「な!なぜだ!?」
SP2「今すぐ拳銃を床に置き、手を挙げろ!!」
SP四人に四方を固められたピスコの顔が険しくなっていく。ピスコは渋々床に拳銃を置き、手を挙げる。
ピスコ「クソッ…なぜだ!?なぜお前らが私の計画を…?」
野間口「誕生日パーティーは延期した。妻も娘も安全な場所で待機している……しかし身分偽装罪、住居侵入罪、銃刀法違反に殺人未遂罪。随分だなぁ枡山さん」
野間口がドアから姿を現す。
ピスコ「貴様!!」
野間口「全く、油断ならないな。最近発言が注目され始めて、敵も増えると予見していたから念のためSPの数を4人に増やしてもらっていたが…私が娘の誕生日を気兼ねなく家族だけで楽しめるようこのひと時だけはSPを外すこと予め読んだうえでその瞬間を狙って突入してくるとは……。秘書からの助言がなければ私も妻も娘も死んでいたよ。実は私達が今日の誕生日会を楽しめるよう私の秘書が昨日のうちに別荘の掃除と必要な家具の運送が完了する様手配してくれていたんだ。それで私の側近がその作業に1名同伴することになっていたんだがね、その彼が門を開けたときに灰のようなものを見つけていたんだ。作業完了の報告時にその妙な不審点も秘書に報告してくれていたんだよ…。私が極秘に別荘で娘の誕生日会を知っている人間は私の秘書と私のごく一部の関係者に限られるが、その中でタバコを吸うものは枡山!!お前しかいないんだよ…」
ピスコ「!…(まさか…あのときエンジン音に反応して急いで振り返り、門を出ようとしたとき、タバコの灰が落ちてしまったというのか…)」
野間口「抜かったな、枡山!お前に悟られぬようある程度の距離を取って警察を自宅周辺に待機させている。お前の犯行現場は完全に押さえた。もう逃げられんぞ」
ピスコ「…(くそ…しかしもう打つ手がない…万事休すか…)」
野間口「SP達、枡山に手錠をかけ妙な動きをしないか見張っていてくれ。今待機中の仲間に電話をかける」
パソコン画面「【座標】……………【方向】A(33.8°,28.5°) B(61.4°,41,7°) C(63.3°,36.9°) D(117.5°,40.9°) E(128.1°,35.8°)」
SPの一人が手錠を準備し、野間口が電話のボタンを押そうとしたその時、ギィィィと板が軋むような音が部屋中に響き渡った。
ピスコ・SP・野間口「ん?クローゼット?」
クローゼットの左側の扉だけが突然ゆっくりと開き出し、そこから拳銃を持った右手が現れたその瞬間、パァン!というけたたましい銃声が5回連続で響き渡り、五人の男が次々に倒れていった、まるで桜の花びらが順に散っていくかの如く…。
ピスコ「な……まさか…」
ピスコがそう言い放って、左側のクローゼットの扉を開けると右手に銃をももった若狭がクローゼットから出てきて、見上げるような形でピスコの額に銃口を向けた。
ピスコ「な、なんのまねだ!なぜお前がそんな所に!!」
若狭「抜かったな、ピスコ…」
ピスコが生唾を飲む…
若狭「お前がこの別荘へ来る前日からこの地に訪れ、玄関先とこのリビングに小型カメラを仕掛けておいたんだよ。敵の出方を伺うためにな…」
ピスコ「そ、そんなはずはない!なんでお前がこの別荘のことを知ってるんだ、しかもどうやって侵入したというんだ!鍵穴にはピッキングの後も窓ガラスが割れた跡も取り替えられた跡は確かになかった」
若狭「馬鹿だなお前は…簡単なことだ。国会議員のデータを管理しているサーバにハッキングして奴のスケジュールリストを見たんだよ。分刻みのスケジュールがびっしり詰まってて休日なんてものはないように思えたが、5/4のスケジュールだけは分刻みのスケジュールのわりには妙に感覚が開きすぎていた。カーソルを合わせてドラッグしてみたら、案の定『あぶり出し』だったよ。野間口の5/4の裏スケジュールが浮き上がってきたってわけだ。それで奴の栗山っていう秘書の別荘っていうのがどこか調べあげた上で、その家の登記から売却した不動産屋を調べ上げ、その不動産屋のデータベースから鍵の形状を割り出し、組織のプリンターで金属ではないが固めのプラスチックで出来た鍵のコピーを作った。それを使って侵入しただけだ」
ピスコ「な、お前まさか俺より先にここにたどり着き、相手の出方を探るためカメラまで仕掛け野間口の動きもこちらの動きも全て読んでいたというのか!?」
若狭「ああ、その通りだ。元々どこかのタイミングで誕生日パーティー用の手配をするだろうと踏んで前日から隠しカメラで見張っていたら、お前がのこのこ門の中に入っていくからお前も同じタイミングを狙ってるってことはすぐにわかった。しかしお前は一つドジを踏みやがった。門の近くへ来た車とトラックのエンジン音に焦って振り返った時、お前がくわえていたタバコから灰が門の後ろ側に落ちていった。それをいぶかしげに見ていた野間口の仲間をカメラ越しに見て思ったよ。これは何らかの策を講じてくるだろうとな…残念ながらそのタバコの灰はすでに清掃員が捨ててしまっていたため証拠品とはならずだ。ならばお前が犯行を犯すその瞬間を押さえるため野間口はわざと罠に嵌めるだろうと。だから野間口とSPやお前が来る前からこのクローゼットの中で身を潜めていたんだよ。お前を現行犯で取り押さえられたと思い込んで野間口達が油断しているその瞬間を暗殺の絶好のタイミングだと読んでな…」
ピスコ「な……いや、だとしてもお前はクローゼットから右手だけを出したままで相手の顔は見ていなかった。ましてクローゼットの扉の右側方面にいたSPを狙うなどまず不可能だ。お前の視界に入っていなかったというのに…」
若狭「話にならねえなぁ…さっき言ったろ、このリビングの様子はカメラで見ていたと。事前にこのリビング空間を座標で表示しておき、野間口とSP四人の鼻先の位置だけを5つの動点として表示しておいた。そしてその座標の位置から逆三角関数を用いて方向をはじき出すこのソフトを用いて偏角と伏角を割り出す。あとはその角度に合わせて引き金を引けば弾丸が奴らの鼻先から脳幹を貫いて、身動き一つ出来ず五人とも即死するっていう寸法だよ…」
ピスコ「まさか……お前…カ、カメラ越しに方向を割り出しただけで、一寸の狂いもなく五人の鼻先を命中させたというのか……」
若狭「んでお前を最後に殺してこの勝負は完全に決着。私の発言が真実だということが証明されるというわけだ、ハッハッハ!」
ピスコ「ま、まて!長年〇〇に仕えた私を撃てばお前の心証は地に落ちるぞ!」
若狭「悪いなピスコ、これはさっきそいつから直々に受けた命令だ。組織の力でここまでのし上がったんだ…もう十分良い夢みただろ…?続きはあの世で…見るんだな……」
パァン!
…………………
…………………
若狭「ハッハッハッハ、いい!いい表情だピスコ!訓練中に試した指導員よりもより深い恐怖と戦慄が顔ににじみ出ている。その腐った死に顔を拝ませてもらった礼に今回のお前のミスは上には黙っといてやる…。しかし思った通りコードネームをもった幹部とかいうやつも大したことねえなぁ。そもそも奴らが正義の花だとか抜かしてる桜の花びらは5枚だろうが…何本気でびびってんだよこの腰抜けが」
そのいい終えると若狭は侵入に用いた鍵をピスコに投げる。
若狭「後始末頼んだぞ、ピスコさん…」
ピスコ「……(何者だ…何者なんだ…あの怪人は…)」
数十分後
〜別荘地周辺〜
警察A「おいまだなのかよ、野間口さんからの連絡は…。ちょっと遅すぎねーか」
警察B「まだあの枡山とかいうやつが来てないだけなんじゃないか…もしくは野間口さんの勘違いだったとか」
警察A「……ん?おい!あの煙って野間口議員の別荘からじゃ!?」
警察B「まさか…何かあったのか…」
警官A「急いで急行するぞ。お前は消防を呼べ!」
〜別荘地〜
ゴンゴンゴン
警察A「おい野間口さん!おい!。くそ、なんで鍵が閉まったままなんだよ」
警察B「まずい火がこっちまで迫ってくるぞ、これ以上は無理だ。退散するしかない…」
正義を掲げた五つの桜の花びらは無残に散った後、業火に包まれ消えていった…
〜小径〜
若狭は業火に包まれた別荘地を背にして、口笛を吹きながら静かに歩いていた
ピュ〜〜♪ピューピュー♪…
若狭「Happy Birthday to Rumi…I will give you a little present…father’s death」
次の日、野間口議員の秘書が所有していた浜松の別荘が全焼して、燃え後から頭蓋骨の同位置に弾痕の跡をもった五人の男性の遺体が見つかった。秘書や警察官の証言からベイカ自動車の会長補佐役「枡山憲三」が最重要容疑者として疑われたが、事件当時東京の会社に勤務していたことがわかり、アリバイが証明されたため容疑者から外されることとなった。そのまま事件の真相は闇に葬られることとなったのだった…
ピスコとの勝負に勝ち、自らの発言が真実であったことを自らの手をもって証明した若狭はクラス0での訓練参加は全て任意となった。その後若狭はクラスでの一斎訓練には参加しなくなり、次第に孤立した存在になっていった。
その事件から1年8ヶ月が過ぎ、若狭が15歳を迎えた頃、世間を騒がす前代未聞の大事件が勃発する。
〜ゲーム会社「満天堂」〜
中島部長「社長、例のソフトようやく完成しましたよ!
宮木社長「お〜、ようやく完成か、よくやったな。あれは我が社が2年かけて作り上げた傑作じゃ。一応確認じゃがセキュリティは抜かりなく備えておるか?最近この界隈は物騒じゃからな…」
中島「ええもちろん、なんならここで社長が直々に確認してみますか?」
社長「確かにそれが一番安心じゃ。早速見させてもらうとするかのう…」
中島「このファイルに保存しております」
社長「これじゃな」
社長がデータを確認しようとファイルをクリックすると、突然謎のプログラムが起動し始めデータを次々に消し始めた。
社長「な、なんじゃこれは!?今すぐ止めさせろ!」
社員A「社長!!私のところにも同様の不具合が発生しています。どうあがいてみてもプログラムを止めることができません」
私も!僕も!と次々被害の声が上がっていく。
中島「社長……まさかとは思いますがこれって…」
社長「神出鬼没という噂は経っていたがまさかわしたちの所にも来たというのか…今経済界並びにIT界を騒がせておるコンピュータウイルス『ナイトバロン』が!」
〜若狭留美の自室〜
カチ、カチ、カチ、カチ…
パソコンをいじる若狭の背後に黒い影が忍び寄る…
(続く)
【次回予告(11/6投稿予定)】
若狭に忍び寄る一人の男、若狭の運命を大きく変える出会いが訪れる。そして若狭に新しい名前が…。日本で羽田浩司ブームが起こっている最中…組織が不穏な動きを見せる…
第四話「狼煙」 〜猛獣使い〜
ピスコとの勝負に完勝した若狭はクラス0の実働訓練への出席が任意となったため、それ以降訓練には参加しなくなっていった。その代わりに自身の知的興奮を呼び覚ます「ゲーム」を見つけてはそのゲームを完璧といえるレベルまで極めたのち、また別の新しい「ゲーム」を見つけてはそれを究める日々を送っていた。
そんな生活を長い間一人で送っていた若狭が15歳になった頃、彼女の人生を大きく左右する一つの転機が訪れる。
〜若狭留美の部屋〜
ある日、若狭がいつものように「とあるゲーム」に熱中し、パソコンを操作していると部屋のどこから突然、機械音が響き出す…
〇〇「久しぶりだね…」
若狭の手が一瞬固まる
若狭「!…(誰だ!?まさか…攻略されたというのか!?)」
〇〇「フッフッフ…安心しなさい、その部屋に内蔵されたチップから音を出しているだけだ」
若狭「チップだと!?」
〇〇「君に一つ聞きたいことがある。現在日本を騒がせている未曾有の大事件についてね…。君の耳にも入っているだろう、大企業のコンピュータへと次々と侵入してはデータを破壊するコンピュータウイルスが流布して、今や経済業界・IT業界は大混乱の渦中へと陥っているという…君はあのコンピュータウイルスについてどう思う?」
若狭「あのウイルスか、一流ホワイトハッカーに加え日本警察のサイバー班の誰一人としてそのスキャン方法もウイルスをばら撒いた黒幕にさえも辿り着けていない状態らしいな。なら完璧と評すべきプログラムだな、あのウイルスは」
〇〇「フフッ…そうか…事前に発見することも止める事も出来ない完璧なプログラムで構成されたコンピュータウイルス…そのウイルスがあまりにも神出鬼没なため世間では、少し前に高校生でありながら一躍デビューを果たした天才推理小説家『工藤優作』のデビュー作に出てくる怪人にちなんでこう名付けられた…ナイトバロン(闇の男爵)とね。…やはりあれを創ったのは君だったか」
若狭「!…フン、急に何を言うかと思えば…証拠でもあるのか?」
〇〇「あのコンピュータウイルスの最大の特徴は『動機が不明瞭』という点。もし金が目的なら、金を稼ぐのに使う手段としてハッカーが行う典型的な行為だが、ハッキングによりコンピュータに侵入してデータを盗み取り、その情報を元に企業と取引すれば済む事。しかし今回の首謀者はデータを盗むわけではなくただ壊しているだけ、よって目的は金ではない。次に考えられるのは怨恨の線。その首謀者がある特定の企業に対して何らかの理由で憎悪を抱いており、その恨みを果たすためにウイルスでデータを破壊したという線。しかしこれもない。なぜならウイルスはある特定の企業を狙ったものではなく、まさに謎の怪人ナイトバロンのように不特定の企業のサーバに侵入してデータを壊しているから。今回の一件で完璧なコンピュータウイルスを流布させて日本社会を混乱の渦へと陥れることで得られるものがあるとすれば、それは日夜必死に仕事に明け暮れデータを完成させた人物達やその二次被害を受けた市民や日本社会の安寧を担っている警察組織の怒り。その怒りの矛先が自分に向かうことこそ首謀者の目的だったのだろう。まるで『お前らの中でこのパズルが解けるやつはいるか?』という挑戦状を日本に叩きつけるが如くね。つまりこれをやった黒幕は自身の情報解析能力を誇示したい人物、それには君が当てはまる」
若狭「ハッハッハ!……ああ、たしかに私はその条件に当てはまるかもしれないがそれは十分条件に過ぎない。他にもそんなやついくらでもいるだろ」
〇〇「フフッ、その通りだ。だが君は先程こう答えた『実に完璧なプログラムだあのウイルスは』とね。もし君ではない別の人物があのウイルスを作っていたのだとしたら、君が完璧だと言って称賛するはずがないだろう。なぜなら君は完璧を追い求める人物だからだ。特に君の情報解析能力は自身の能力の中でも最も秀いでた、いわば得意分野。君が参加しないはずがない、この『ゲーム』に…。だがこれも君の発言から読み解いた私の推理に過ぎず、証拠はない。そこで一案だが『このプログラムの完璧さこそが、この一件の黒幕が君であること』の証拠にしてはくれないか?」
若狭「ハッハッハッハ!!完璧さこそが証拠か…、クククッ…実に面白い。なかなか面白い奴じゃないか、お前。面くらい見せろよ」
ガチャ…若狭の部屋の扉が開く。
若狭「!!」
若狭が驚き後ろを裏返ると、ある男が微笑みを浮かべ立っていた。
若狭「誰だお前!なぜここが…」
〇〇「君が隠れてないで出てこいというから、お望み通りこうして来たんじゃないか…」
若狭「お前は…(『隠れてないで出てこい』…………!こいつまさか、ピスコとの勝負を提案してきたあいつか!!…そういえば奴、あのときも機械で声を変えてたな…)」
〇〇「どうやらその顔は思い出してくれたようだね……ピスコとの一件以来だ……」
若狭「ああ…思い出した、あの時も機械で声出してたやつだな。そしてお前がひょっとして『ラム』ってやつなんじゃないのか?」
〇〇「ほ〜、なぜそう思う?」
若狭「フン…例の一件で奴ら(野間口議員達)を殺した後ピスコの野郎の額に銃口を押さえつけて空砲を放つjokeをかましてやったんだが、あいつ撃たれる刹那にこう呟いてやがったよ『長年ラムに仕えた私を撃てば、お前の心証は地に落ちるぞ!』とね。それと教室長であいつとやりあった時、お前に対する態度がやけに礼儀正しかったんでね…お前がピスコを駒にして操ってるラムなんじゃないかなと思ったわけだ、まあお前と同じく証拠はないが」
ラム「ハッハッハッハ、全く私の名前をだして命乞いをするとは、実に滑稽だ………。まあしかし君の活躍はとても楽しませてもらった」
若狭「…」
ラム「私は裏で君とピスコの動きを部屋に内蔵されたカメラ越しに見て、戦況を楽しませてもらっていたんだよ。私は正直ピスコが圧勝すると思っていた…。いくら君がずば抜けて優秀だといってもそれはクラス0での相対的な評価だ…我々組織の中での評価ではない。それに君は今までで実務経験が0、任務をしたことは一度もなかった。君と比べてピスコはコードネームを貰うまでいくつもの仕事を成功させてきたそれなりの強者だ…経験量に圧倒的な差がある。しかし君は私の想像を遥かに上回る動きを見せた。君は任務の基本理念を深く理解していた上に情報戦でもピスコとほぼ互角に渡り合った…ピスコが表で築き上げてきた地位と財界のコネを利用して標的周辺の情報を得ていたのに対し、君は10歳から独学で磨き上げてきたハッキングの技術により野間口のスケジュールに隠された秘密に辿り着いていた。しかしその後は日が経つにつれ君が優勢になっていたね。ピスコが別荘地の特定にいそしんでいるうちに、君は得意のハッキング技術ですぐさま秘書の別荘地にたどり着いたうえその家の鍵の形状を特定するところまで進んでいた。そして君はおそらくそのデータから作成した鍵の模倣品であらかじめ別荘地に侵入して、相手の出方を伺うために倉庫から持ち出した二台の隠しカメラを設置していたんだろう…守りにも抜かりがない点は13歳とは思えない慎重さだ。そしてそのカメラを通して野間口とピスコの動向を見ていた君はピスコのミスに気づいた、私もモニター越しに君のカメラの映像を見ていたから少々焦ったよ。まあ君がサクラ(拳銃)と計算ソフトを準備した時点でピスコのミスは君がカバーしてくれると信じていた、念のため彼のアリバイは作っておいてあげたがね…」
若狭「まさか!お前が裏で手を回していたのか…あの事件で唯一解けなかった謎は事件後になぜかピスコが捕まらなかったことだ。秘書や警察の証言があれば奴が疑われることは読めたし、あのウザい教室長を身柄ごと失脚させてやろうと思ってわざと奴のDNAが採取できる唾液がついたタバコをわざと火の届かない門付近に置いて帰ったが、なぜかその日は奴が会社にいたっていう複数の目撃証言があってそいつが決定的なアリバイとなり、白だとされた。だが奴は確かにあのとき別荘地にいた……同時刻で異なる場所に同じ人間が存在することはさすがに不可能だ……どんなカラクリがあるっていうんだ、ラム」
ラム「さあ?その謎解きは君の『ゲーム』の一つにでもしたまえ」
若狭「……それで?私がピスコを助けたフリをしてはめ損ねたことに対して姿まで現してわざわざお礼を言いに来たっていうわけか?」
ラム「もちろん、その件については感謝している。ピスコのミスをカバーしてくれて助かった、ありがとう。そして今回私が君をみくびっていたお詫びといったらなんだが、こんな一室で一人寂しく『陳腐なゲーム』を消化してないで私の元で『特別なゲーム』を一緒に楽しまないか、というお誘いを君にね」
若狭「ほぉ〜。んで、その『特別なゲーム』っていうのは?」
ラム「君のような実働訓練を完璧にマスターした人間にしか成功し得ない特別なミッションだよ」
若狭「ハッハッハッ!…要はお前の右腕なって働くってことか………まあいいだろう…。ここまで笑ったのは久々だ、それに唯一ナイトバロンの仮面の奥に私がいることを見抜いたお前のその面白さに免じて、やらせてもらおうか…その『特別なゲーム』ってやつを」
ラム「ハッハッハッ!その気になってくれて嬉しいよ…」
若狭「もうこの『ゲーム』にも飽きてきた所だったし丁度いい。私のナイトバロンが誰も発見することも止めることもできない致死率100%のコンピュータウイルス、まさに完璧なウイルスであることは実証された。もうここに私の知的快感を味わせてくれるものは一斎ない」
ラム「その狂おしい好奇心を永遠に枯らさぬ悪魔の水を…君に捧げることを約束しよう」
これを機に若狭はラムの元で特別任務を請け負うこととなった。ラムの課す特別任務は『海外市場を展開しているあるIT企業社長の暗殺する・金の極秘レート情報を盗み取る・ダークウェブ内の闇市場取引で1000億の利益を出す』など高難易度の仕事ばかりだったが、若狭は特別学校時代に体得したあらゆる分野の圧倒的な知識・技能とクラス0の実務訓練で鍛え上げた秀逸なインプット能力とアウトプット能力を組み合わせ、任務を次々と成功させていく。
それから三年が経ち…ラムの誘導で持ち前の実力を発揮する場を与えられた若狭が、驚異的な速度で特別任務を遂行して組織へ莫大な利益をもたらしていることがついに烏丸の目にも留まり始めたのだった。
ラムの元で躍動し始めた若狭が18歳になったある日のこと、若狭へ差出人不明の一通のメールが届く。
『7572849271689371937193018』
若狭「…(暗号か…桁数は26か……)」
若狭は光速の勢いで送られてきた一つの数字を解析していく。3分後、若狭の手が止まる。
若狭「…!(そういうことか…)フッ」
若狭は指示通り指定された場所へ出向き、扉の前でコードを打ち込みロックを解除した。扉を開け中に入ると、薄暗い空間を淡い色の光が包んだ小洒落たバーが視界に現れ、カウンターには一人の男に座っていた。
若狭「こんなところに呼び出してなんのようだ?」若狭は横のクローバーと書かれた看板を見る。
ラム「まあいいじゃないか…さあ座りたまえ、今日は貸し切りにしてある」
若狭は言われた通り席に座る。
ラム「相変わらず健在だな……わずか15分でここまで辿り着くとは…」
若狭「RSA暗号……桁数の大きい合成数の素因数分解が困難であることを理由に安全性を担保した暗号、それを模した『ゲーム』であることが分かってしまえばあとは容易い。あの巨大な合成数をまずは素因数分解してみると、現れた素数の下2桁も素数になっていた。そんなこと偶然には起りえねぇ。そこまでたどり着けば対応表は一目瞭然だ。1〜100までの素数と1を含めた26個の自然数をアルファベットに対応させていけば文字が出来上がるっていうカラクリだろ?あんたは特に素数が好きだしな」
ラム「数の原子達を用いた『ゲーム』だ…君も楽しんでくれると思っていたがどうやらイマイチだったようだ…」
マスター「例のもの、お待たせいたしました。それではお二人ともごゆっくり楽しんでください。私は失礼させていただきます」
ラム「待ちなさない、そういえば私はまだ君にあの時の礼を言っていなかった、随分前のことだが助かったよ」
マスターが微笑む。
マスター「…ええ…では」
マスターはその場を去っていった。若狭は二人の前に置かれたそれぞれのグラスを見つめていた。
若狭「ワイン、のようだな…」
ラム「これは私からの祝杯の証(しるし)だ。さあ、頂こう」
若狭「祝杯?」
少し傾いたグラスがテーブルの上にたたずむグラスを弾く…小さな音が鳴り響き、琥珀色の波が微かに揺れる。
ラム「さあ、君も飲みたまえ」
若狭はグラスを手に持ち、ワインを口にする。
若狭「酒を口にするのは初めてだが、見た目の割に結構辛いな」
ラム「ハッハッハッハッ、まさに君そっくりの代物じゃないか…」
若狭「あん?」
ラム「君もそうだろう?典型的な女性の容姿を持っているが、開けば刃物のような言葉が次から次へと飛び出してくる辛口の持ち主」
若狭「フン、言葉も凶器にできるならなおさら都合がいいんでね」
ラム「Madeira Wine」
若狭「ん?………ああ、これか。そのマデイラワインってのは。アフリカのモロッコ沖に浮かぶポルトガル領マデイラ島で生産されているワイン。製造過程で発酵時間を短くすれば甘口になり、発酵時間を長くすれば辛口になる。大きな特徴は製造途中にアルコールを添加して発酵を抑える酒精強化ワインである点と自然加熱又は人工加熱により加熱熟成させることで酸度・糖度・アルコール度・色調の度合いを高める点、だったな?」
ラム「そう……『マデイラ』、それが今日から君が襲名する新しい名だ」
若狭「!…(コードネームか)」
ラム「だから言っただろう、祝杯だと」
若狭「ハッハッハッハッ!…名前なんざ自身と他者を区別するただの記号に過ぎない、なんらめでたいことではない」
ラム「今まで君が築き上げてきた功績があの方の目のもとまり、ついにコードネームを頂けることになった。私の右腕になり早三年、歴代最年少でのコードネーム襲名…祝わせてもらってもいいだろう…」
若狭「あの方ねぇ…そういえば奴には
コードネームがないみたいだな?ラム」
ラム「…」
若狭「あんたから課された例の宿題がようやく解けたんで丁度このタイミングで答え合わせといこうか…ピスコのアリバイトリックのカラクリについてね」
ラム「ほう…ならば聞かせていただこうか、君の答えを…」
若狭「あれからこの組織が好んで使ってる酒のコードネームについて三年間かけて調べ尽くした。そしてようやく突き止めたが、どうやらこの組織には一人いるみたいじゃねぇか…『ベルモット』という名の変装の達人がな」
ラム「…」
若狭「千の顔をもつ魔女の真の面はまだ分かってないが、あんたがそのベルモットってやつにピスコに扮するよう命令したんだろ?事件の前日私のカメラをモニター越しに見て、ピスコが最重要容疑者として疑われることを読み、事件当日ベルモットにピスコのアリバイを作らせた。どうだ?」
ラム「フッフッフッ、私の負けだよ…その通りだ…ピスコは表でベイカ自動車の次期会長の最有力候補という力のある地位があったものでね…もう一度だけチャンスをくれてやったんだ」
若狭「そして…ここからが本題だ。この謎を解いている過程でまた新しい謎が現れた」
ラム「ほぉ…というと?」
若狭「烏丸グループ」
ラム「!…」ラムが動きを止める。
若狭「コードネームを調べている過程で、男には比較的アルコール度数の高い蒸留酒をコードネームをつけ、女には比較的アルコール度数の低いワインをコードネームにつけている法則に気づいた。そこでここのボスのコードネームがわかればその性別が特定出来ると踏んで探ってみたが、どうやらここの大将さんにはコードネームはないようだな?それが気になって私が辿ってきたルートを逆行して特別学校やクラス0を運営している黒幕が誰か、探ってみた。そしたら出てきたぜ『烏丸グループ』という大きな手がかりがな。だが20世紀日本で巨大な富を築き上げていた烏丸家の御曹司『烏丸蓮耶』は今から約30年前に99歳で謎の死を遂げたとされている。この噂がガセネタであることまでは掴んだが、どうやら40年前に100歳を超えていたのはどうやら間違いないようだな。人間の細胞の寿命は細胞内の染色体がもつ末端塩基配列、いわゆるテロメアの情報で決定づけられる。奴が現在も生きていることは生物学的に不可能なのは明明白白だ。だがあんたらが忠誠を尽くしているあの方ってやつはどうも別の後継者とは思えない忠誠心が感じられる…まさかとは思うがここには細胞の寿命をストップさせる魔法のような薬でもあるというのか?どうなんだい、烏丸グループのNo.2であるラムさん?」
ラム「どんなセキュリティでも突破できるその異次元のハッキング能力があればどこでも調べ放題というわけか…………。まあいい、君もいずれ知ることになるだろうあの方の側近としてね。その時までの宿題ということにしようじゃないか、君の知的興奮を暴発させる火薬として携えおく方が君にとっても好都合だろう、マデイラ?」
若狭「フッ…まあそれもそうだ。あんたのいう通りこの謎解きも新しい『ゲーム』のままにしておこう…」
こうして若狭がマデイラというコードネームを襲名して組織の幹部となった一年後…
〜日売テレビ〜
MC1「本日のスペシャルゲストは………今や日本でその名を知らぬ人はいない!日本中に将棋ブームを巻き起こし、現在将棋界で最も七冠王に近いと目されている天才棋士こと…四冠王『羽田浩司』さんです!!!」
スタジオ上に拍手が鳴り響く。
MC2「今日は大変お忙しい中来ていただき本当にありがとうございます!本日はよろしくお願い致します」
羽田浩司「こちらこそこのような機会を設けていただき誠に光栄です。よろしくお願いします」
コメンテーター「いやー羽田さんはやっぱり和服が似合うねぇ!生粋の棋士
って感じがしてるよ〜オーラが滲み出ているね〜」
羽田浩司「それはありがとうございます、恐縮です」
MC1「先日のタイトル戦では見事3勝1敗で勝又力棋聖を下し四冠になられたわけですが、本タイトル戦を振り返ってみて感想をお伺いしてもよろしいでしょうか」
羽田浩司「そうですね…まずはタイトル戦という神聖な舞台で師匠と肩を並べて戦えたことが何よりも感慨深かったです。一戦一戦ギリギリの攻防が長く続き苦戦を強いられることも多かったので、タイトルを獲得したという結果自体は私にとって望外で…」
………
………
………
MC2「それでは最後に今後の展望について一言お願いします」
羽田浩司「初志貫徹という言葉を胸に刻み、日進月歩で邁進していく所存です」
MC2「頑張ってください、私達も応援してます!」
MC1「七冠王という将棋の限界へと挑戦を続ける羽田浩司四冠!今後も彼の躍進には目が離せません!以上『今注目のあの人に聞いた!』のコーナーでし」
羽田浩司「待ってください」
MC1「え?な、何でしょうか」
羽田浩司「確かに将棋には競技・勝負という点において七冠王という名の頂点が存在しますが、将棋という宇宙の飽くなき探求の旅に…終わりなんてありませんよ…」
MC1「これは失礼しました!」
羽田浩司「いえいえ、こちらこそ出しゃばってしまい申し訳ありません。この旅に限界があるとすればそれは私の命が燃え尽きるときですね、誰しも時の流れには逆らえませんから」
MC2「そうですね!羽田浩司四冠の将棋への揺るぎない信念が垣間見れた瞬間でした!また明日も日売報道ショーでお会いしましょう〜、さよなら〜」
〜世間の声〜
「羽田浩司かっこいいなぁ〜、お母さん僕も将棋やってみたい!」
「何か一つのことを極めるのってやっぱかっこいいことだよなぁ、おれももう一回ギター頑張ってみるか」
「部長、羽田さんとの交渉うまくいきましたよ」
「それはでかしたぞ!羽田家は信頼のある資産家だし今や息子の羽田浩司の活躍で益々株が上がっている…羽田さんからの支援を受けているということ自体が今後大きなブランドになるだろうからな…フッフッフ」
〜黒の組織〜
ラム「…(現段階で我々には到底及ばない小さな資産家だが、その御曹司である羽田浩司の活躍と人気ぶりから羽田家が最近になって勢力を高めてきている………。このまま彼が全てのタイトルを制覇し、七冠王にでもなれば羽田家ブームにますます拍車がかかり彼らの勢力が爆発的に高まる……そうなれば日本の経済的実権を現在握っている我々としても無視できない存在になるだろう…財閥争いが起こることは目に見えている。危険な芽は早いうちに潰すのに越したことはないか…羽田家ブームの火付け役となっている彼が我々にとっての脅威となる前に先手を打つとしよう…)」
ラム「マデイラ、君に頼みたい任務がある…」
若狭「はい、任務の詳細を」
ラム「将棋の四冠王『羽田浩司』の暗殺だ」
若狭「了解」
(第一章完、第二章に続く)
【次回予告(11/9投稿予定)】
羽田浩司暗殺計画を企てた若狭留美は、アメリカの資産家アマンダ・ヒューズの命を助けて……最初のチャンスが訪れた若狭が取った行動とは?
コメント
コメントを投稿