ラム編考察《三人のラム候補と真のラム》
(サンデーFile.1062©︎青山剛昌/小学館)
⑴ラムの行動を振り返る
ラム編がスタートした85巻緋色のエピローグから最新号(1063話)までをなるべく時系列にそって振り返っていき、ラムの人物像を描く上でのヒントを読み取っていく(*ネタバレ注意)
⓪ラム編スタート
ラム編がスタートしたのは赤井秀一が復活した緋色シリーズのラスト「緋色のエピローグ」である。
《A.キールからのメール》
緋色シリーズが終わった直後にキールから「RUM」というメールが届き、RUM編が始動することになった。単語だけを送信してきたことから赤井はキールが切迫した状況にあったと推理している
《B.赤井秀一の証言》
この時赤井秀一は「組織にいた頃2、3度名前を聞いたことがあり、どうやらボスの側近らしい」と証言している。かつてコードネームもちの幹部(ライ)だった赤井秀一でさえラムの情報はほとんどアクセス出来なかったようだ。
《C.ラムの目的》
ラムが何らかの目的をもって動き始めたのは確かだが、その目的は今のところ不明。状況から予想するしかない、がキールが切迫した状況ということや緋色シリーズのエピローグでベルモットが「ネズミが入り込んでいるってジンが問題視していたし」と発言していることから「ラムは組織内のNOCをあぶり出して抹殺する活動を開始した」というのがまず簡単に考えられる。
他にもラム編において最重要事件である17年前に起きた羽田事件について捜査資料がなぜかネットに流出していたり、羽田事件に関心のある人物達が不穏な動きを起こしている状況を考えると「ラムは羽田事件の公安の捜査資料がネットに流出していることから羽田事件を掘り起こそうとしている人物がいることを知った。そしてその人物が17年前の羽田事件で自分を裏切った浅香であることを推理し、死んだと思っていた浅香の存在を疑い始めたから」というのもありそう。
①灰原の証言
「屈強な大男・女のような男・年老いた老人・影武者」などラムの人物像は十人十色であり、唯一義眼であるという情報だけは確定している。
《A.ラムは片方の目が義眼である》
義眼という情報からラムを特定するとなると、つい目に注意が行きがちになる。目だけに注目して考えると既出キャラで目に障害のあるジュノグラスとかがラムなのかもと疑いたくなるが、よく考えてみると義眼をつけている人物の心理は「片目が本当は見えてなけど義眼で両目が見えているように偽装している」というもの。よって目が見えていないことが始めからわかるような人物像は逆にラム候補からは除外される。むしろ一見すると両目が見えていそうだが実は視野が極端に狭かったり、距離感覚が掴めていないような仕草をしている人物こそラムとして最も疑わしい人物である。
《B.ラムの人物像は十人十色》
幹部クラス(ライ・シェリー)でもラムの確定的な情報はほとんど降りてきていない。つまりラムは自分の情報に対して分厚いバリアを張るような守りの固い人物。
そして「屈強な大男・女のような男・年老いた老人・影武者」という証言。これらの不確かな情報はラムの3つの側面を各々示したものかもしれないし、複数いる影武者の特徴なのかもしれない。現時点でどちらを意味しているのかはまだ不明だが、日常編の暗示を考慮すると前者の可能性が高い。となればこの三つの側面はラムの人物像を探る上でのヒントにはなるけど、多様な解釈がありえるのでこのヒントは後回しにする方がよいだろう。
②羽田事件の火消し
ジンの証言からラムが羽田事件で何らかの失敗を犯したことが分かった。どんな失敗だったのかは明らかになっていないが、現状では羽田浩司に「CARASUMA」というダイイングメッセージを残された+ラムの腹心だった浅香(=若狭留美)に裏切られた上に殺し損ねたことだと推理している(詳細が気になる方は以下の記事で述べているので参照にしてください↓) 《羽田浩司殺人事件》ピース編
この点を踏まえて次の二つの出来事を考えてみる。
《A.曲「ASACA」に反応》
波戸が17年前に作った曲「ASACA」をライブで発表するというニュースに組織が反応。ベルモット(梓)とバーボンがライブのリハーサルを調査しに来ていた。表で動いたのはベルモットとバーボンだったが、これを裏で指示した人物が誰か考えてみる。
今回組織が動いたのは当然この曲が羽田事件と関係しているのではないかと疑ったからである。つまり組織の目的は簡単に言えば羽田事件の火消しである。ジンは「ラムの抜かったりころしなんざ知ったことか」と羽田事件に対してはまるで無関心。これらのことを考慮すると裏で波戸の曲を調査するよう指示したのは羽田事件で何らかの失敗をしたラムとみて間違いないだろう。
ではラムがベルモットとバーボンの二人にこの調査を依頼したのかということになるがベルモットとバーボンが車に同乗するシーンを見返すと、実はバーボンはベルモットに協力を要請される形で今回の調査に参加していることがわかる。つまりラムが直接波戸の曲を調査しろと指示をしたのはベルモットのみである可能性が高い。ここからラムとベルモットの関係性が少し見えてくる。
コードネームつきの幹部の中でもラムはベルモットに命令出来る立場にある、すなわちラム>ベルモットという優劣関係があると見てよいだろう。ここからは予想だが、おそらくバーボンが「ベルモットの秘密=ベルモットの弱味」を握ってベルモットを利用していたように、ラムもベルモットの秘密(ボスとの関係)を知っていてベルモットはラムに逆らえない状態になっているのだと思う。コードネームつきは基本的に同格と青山先生も名言しているが、ラムだけは例外なのかも。
《B.MI6潜入+メアリー暗殺計画》
ベルモットはメアリーを暗殺し、赤井務武としてMI6に潜入しようとしていたことが過去回想から明らかになった。
少し補足だが、この過去回想からベルモットは赤井務武の姿を知っている上にMI6に所属していることや家族構成(真純以外)を把握していたことなどがわかる。ということは赤井務武は過去に組織の中核に迫り、少なくともベルモットととも対峙していたのは確か。ここで赤井務武は自分の目的(羽田事件の真相を明らかにし、犯人を捕まえること)を組織側に明かしていたと思うので、組織の人間であるラムやベルモットは赤井務武が羽田事件の真相を見抜き、組織に迫った人物であることは知っていたはずである。となると組織がMI6に潜入したり、メアリーを暗殺しようとしている目的は赤井務武が手に入れていた羽田事件と組織に関係した情報がどこまでMI6に漏れているのかを突き止めることや赤井務武に近い人物(家族など)を抹殺すること(疑わしきは罰する)、つまりこれも目的は羽田事件の火消しに他ならない。
ということは同様にこの作戦を裏で指示をしたのはラムとみて良いだろう。ラムとベルモットの主従関係がここでも垣間見える。
《C.疑問点》
このように分析していくとラムは羽田事件に関する話題に常に眼を光らせており、火を見つけ次第即座に火消しに当たっていると思われる。しかしラムはそれを自ら実行するのではなく、裏で指示をするだけで実際に表で火消しをするのはベルモット。おそらく17年前に羽田事件で犯した大きなミスをラム自らが責任をもって一生対処していくことになっているのだと思う。
するとここで気になってくるのは二点。羽田事件に対してラムが眼を光らせていいて、余計な火が出ればすぐに火消しに回っているが作中では羽田事件に関わっている二つの事件について組織が動いているシーンが明確には出てきていない。
《D.霊魂探偵殺害事件》
霊魂探偵と呼ばれる堀田が羽田浩司の霊を呼んで羽田事件の真相を解き明かそうとするが、その前に殺されてしまう事件。組織からしてみれば波戸の曲「ASACA」よりも、(霊魂探偵という胡散臭さはあるものの)ダイレクトに羽田事件に関係してくる出来事でありこの事件に対してラムが何の反応もしないということは考えられない(ジンが小五郎を疑問視している描写はあるが、具体的に行動は起こしていない)。しかもこの事件を解決したのが前にシェリーとの関係を疑われた毛利小五郎であった。ラムにとって毛利小五郎を疑うには十分すぎる要素である。となると羽田事件の火消しのため当然ラムは毛利小五郎が白か黒なのか見極めるために調査をしようとしたはずである。今まで読み解いてきたラムとベルモットの関係からしてみると、この小五郎の調査もベルモットに指示しそうだがブラックインパクトでベルモットは異常に小五郎のことを庇っていたために、毛利小五郎となんらかの関係がありそうなベルモットを今回の調査に向かわせるわけにはいかないと判断しただろう。となればラムは別の人物を調査に派遣しているor自ら調査しているはずである。
振り返ってみると霊魂探偵殺害事件が起こった直後にたった一人毛利小五郎に不自然に近づいてきた人物がいて、それこそが「脇田兼成」だった。よってこの部分からも脇田の正体が「ラムから毛利小五郎を調査せよと指示された部下orラム本人」である可能性は高いのではないだろうか。
《E.プロゴルファー殺人事件》
高級マンションに住んでいたプロゴルファーが恋人を殺害する話だが、この事件も最後に若狭先生がカメラに撮られて新聞の一面に載ったことで羽田事件と大きく関わってくる事件になった。なぜなら若狭留美という名前が羽田浩司が残したダイイングメッセージの一つの解釈「ASACA RUM」と酷似しているからである。
これが世間に知れ渡ったということは組織の目にもとまりその中でも羽田事件に眼を光らせているラムならこのアナグラムに気づいたはず。となれば何かしらの反応を見せるはずだが、作中ではそのようなシーンが明確に描かれることはなかった。となるとどこかでそれを示唆しているシーンが出ていると考えられる。そのシーンというのが事件解決直後に出てきた新聞を見ている脇田が「トンチが利いている」と反応したシーンなのではないだろうか。
③工藤新一の調査
《A.ラム→工藤新一》
安室はRUMと名乗るものから2通のメールを受けた。しかし1通目のメールはスペードマークのついた公安用のスマホに、2通目のメールはマークのない組織用のスマホに届いている。よって2通目のメールを送信したのは組織の人間であり、送信者が自身をRUMと名乗っている人物だということになりる。このメールの送信者がラム本人なのかラムの影武者なのかはまだ不明だが、いずれにせよラムが工藤新一の情報を欲しがっていたというのは概ね正しいと判断してよいだろう。
《B.ラムとAPTX4869》
ラムが工藤新一の情報を求める理由について考えてみるが、今回は羽田事件とは関係ないことは明らかである。組織と工藤新一の接点と言えばAPTX4869であり、ラムは「組織がAPTX4869によって殺したはずなの工藤新一が京都で生きていて事件を解決したニュースが流れた」ために工藤新一に疑惑を持ち始めたのだろう。となるとラムはAPTX4869に毒薬の作用があることや工藤新一がAPTX4869によって毒殺されたとされていることも知っていることが見えてくる。ただ羽田事件の時にもAPTX4869を殺害に使っていたみたいなので当然17年前からラムはAPTX4869について知っていたと思われるが、シェリーが復活させたのちにまた完全犯罪を為し得る毒薬としてAPTX4869を組織が使い始めているという内部事情を知っている点はラムの特徴かもしれない。ジンでさえ17年前のAPTX4869については知らなかったわけなので、No.2だけあってラムは組織の中でも極秘と言える情報をある程度は持ってる感じがしてくる。
④工藤優作の調査
《A.ラム→工藤優作》
1058話〜1060話により、ラムは「今後組織にとって脅威となりうる工藤優作がなぜか日本に留まっているから内情を探れ」ということでベルモットに指示をしていたことがわかった。羽田事件の火消しと同様にここでも裏でラムがベルモットに指示をして、表でベルモットが調査をするという構図が現れている。やはりラムはベルモットを駒のごとく自由に操れる立場にある。
ラムが工藤優作を恐れているのは優作が卓越した推理力を持っているのも理由の一つだと思うが、より懸念している点は「優作が組織が葬った(とされている)工藤新一の父だから」という点にあるだろう。優作が息子の死を探る過程で組織の存在に気づき、息子の敵を討つために組織と敵対する可能性は十分に考えられる。ラムとしては実は優作が息子の死を調査するために日本に留まっているのではないかという疑念が生まれ、ベルモットに調査を命令したという経緯があったのだと思う。結果的にラムの推理は正しいが、優作にかわされてしまい内情を正確に掴むことは出来ずじまいという展開になった。
《B.ラムの役割》
また今回の一件からラムは羽田事件だけではなくつねに組織の危険分子となりそうな人物がいないか眼を光らせているような用心深い人物であることがわかった。
組織の仕事というとジン達が表で闇取引や暗殺をしているイメージだが、どうやらラムはそういった活動よりも組織にとってマイナスになりそうな分子(人物や出来事)をいち早く発見して消し去るような「リスク管理をする役割=守り」を担っていると考えてよいのではないだろうか。(サッカーでいうとジンがトップでラムがセンターバックというイメージという感じ)
⑤FBI連続殺害事件
最新話(1061話〜1063話)
100巻を記念した組織編でようやくラム本人が登場したことにより、ラムの特徴が色々と明らかになったので一つずつ見ていく。
《A.ラムの口調》
「待て、私の話を聞きなさい」という話し方をしていた。これは若狭先生の「私の生徒から目を離しなさい」という喋り方に似ていて、ラムは女性のような丁寧な口調で話す人物だということが読み取れる。また第一人称は「私」である。
ところで灰原の証言の一つに「女のような男」というヒントがあったが、これは「女のような口調で話す男」というラムの一つの側面を捉えたものなのかもしれない。
《B.ラムの性格》
ラムは部下に対して無線で命令を送っていたけど、なぜか声を変えていた(純黒の悪夢と同じような行動)。この意味は三通りくらいの意味が考えられる。一つ目はFBIに声を傍受されることを警戒したため。二つ目は組織の幹部にさえも自分の声という情報を与えないようにするため。三つ目はラムの影武者が指示しているから。
このようにいろんな解釈が出来るが、いずれにせよ自分の情報に対してバリアを張っていることになる。つまりラムは自分の情報を徹底的に隠すような守りの固い人物、用心深い人物であることが見えてきた。この点はシェリー・ライという幹部でさえもラムのはっきりした情報をほとんど掴むことが出来ない点ともつながっているし、ラムの性格として考えてよいだろう。
灰原の証言の一つにラムは「年老いた老人」であるというものがあった。これも色々な解釈がありえるが、「年老いた老人」というのはラムは慎重で落ち着いた性格であるというラムの一つの側面を表したものかもしれない。
《C.ラムの能力》
ジン達が皆FBIの暗号の罠にハマりそうになっていた時、組織でたった一人FBIの暗号の変化に気づき、作戦を変更した人物がラムであった。ここからまず見えてくるのは暗号の変化に気づく観察力、そしてそこからFBIの暗号が罠である可能性を考える思考力を兼ね備えている、すなわちラムは高い推理力をもっていることがわかる。さらに相手の罠を読んだ上でその裏を書いた作戦を指示するような戦略家・策士としての一面も持ち合わせている。コナンサイドのコナンと優作に近い能力をもった人物といえる。
《D.ラムのポジション》
そもそも「待て、私の話を聞きなさい」という命令があったときの幹部の表情からして、ジン達にとってラムが絡んでくることはおそらく想定外だったのだろう。
しかしラムはFBIが作った暗号の「ふ」の表記がFUがHUになっていたことに気づいていた。つまり組織の作戦に表で直接関わってはいなかったもののFBIと組織の戦況を細かく把握していたということ。
よって(これまで見てきたことだが)ラムは組織内で表(戦場)には出ずに裏から戦況を見守り、暗躍するポジションである可能性が高い。チェスや将棋を知っている人ならジン・ウォッカ・ベルモットなどの幹部が盤上(戦場)にいる駒(部下)であり、ラムは盤上全体を考慮した上でその駒を裏で操っている人物(司令塔)というイメージをするとわかりやすいと思う。
またラムの声を聞いた時にジン以外のメンバーに緊張が走っていたり、幹部全員に命令したりしているのでラムはコードネームをもつ幹部の中でも特殊なポジションにあると判断して良さそう。
⑵ラムの人物像(総まとめ)
今まで読み解いてきたラムに関する情報を繋ぎ合わせてラムの人物像を描いてみる
⓪補足
組織の幹部につくコードネームの法則からラムは男性である可能性が高く、17年前に起きた羽田事件で既に組織の重鎮だったことからラムの年齢は(幼児化していなければ)40歳以上と推定してよいだろう。
①性別 男
②年齢 40歳以上
③身体の特徴
・左右どちらかの目が義眼
④性格
・女性のような丁寧な口調で話す
・用心深く、慎重な性格(守りが固い)
⑤能力
・推理力が高い(コナンや優作に匹敵するレベル)
・優れた作戦を企てる策士(戦略家)
⑥組織内のポジション
・組織のNo.2(ボスの側近)であり、コードネームをもつ幹部の中でも別格の存在
・ベルモットに命令を下せる立場
・裏で組織にとっての危険分子や敵対勢力に対して常に眼を光らせているポジション(リスク管理をする守りのポジション)を担う。ただし裏で指示をして暗躍するのみで、表での活動は部下に命令して任せている。
⑦動向
・羽田事件の火消し
・疑わしい(グレー)人物や危険分子「毛利小五郎、工藤新一、工藤優作」の調査を裏で指示している
・裏から戦況を分析して、表で活動している幹部達に指示を出す
⇩まとめ
《ラムの人物像》
ラムは丁寧な口調で話す落ち着いた40代以上の男。非常に聡明で用心深く、組織にとっての危険分子や敵対勢力に常に眼を光らせている。場合によっては部下に調査を命令したり、作戦を指示したりして裏で暗躍している。組織内では守りの要のような役割を担っている。
『ここまではラムに行動を振り返りながら、ラムのヒントをかき集めていき、不鮮明な部分もあるがラムの人物像を描いたところまできた。ここからは三人のラム候補である黒田・若狭・脇田と↑で確認したラムの人物像を照合していきながら、どれくらいラムの人物像とマッチするか確認していく』
⑶黒田兵衛
①黒田→コナン
長野で黒田はコナンに初めて会った時からコナンのことを「眠りの小五郎の知恵袋」と呼んでいた。これだけではコナンを小五郎を手助けしている賢い少年と思っているだけともとれる。しかしその後警視庁捜査一課の管理官となった黒田は高木刑事に対して「コナンの言う通りにしろ」と電話で指示をして完全に捜査の主導権をコナンに委ねていることを考慮すると、単なる賢い少年という認識ではなく、眠りの小五郎の黒幕がコナンであることまで黒田は気づいていると見てよいだろう。
羽田事件と関係のある「霊魂探偵殺害事件」を解決したのは表向きには毛利小五郎ということになっている。毛利小五郎は以前にシェリーとの関係を疑われたことがあり、さらに羽田事件を調べている可能性が浮上すれば⑴で見たように羽田事件の火消しをしているラムが毛利小五郎をマークして調査をさせるのは当然である。さらにコナン=眠りの小五郎の黒幕であることを知っていたのなら、注意は毛利小五郎ではなくコナンに向くはずである。
しかし黒田はその後コナンに対して何ら疑う素振りを見せていないし、むしろ女性警察官連続殺人事件ではコナンに対して全幅の信頼をもっていて、安室経由で情報を提供して事件解決に協力してもらっている。またコナンが犯人を特定した際には「眠りの小五郎の知恵袋、さすがというべきか」とその推理力を称賛している。このように毛利小五郎に対する言動がラムの人物像と大きくズレている。
②黒田→安室
上で述べたことでもあるがなぜ黒田は初登場回から「コナン=眠りの小五郎の黒幕」であることを知っていたが、『女性警察官連続殺人事件』のラストシーンでその理由がわかる。
今回の事件で黒田は安室に対してコナンに情報提供をするようにメールで命令していた。そしてその事件解決後には黒田と安室は電話でコナンのことを「あの少年」と称しており、共通認識していることがわかる。この時点で黒田と安室にはコナンの情報を共有するような信頼関係があり、黒田は安室に命令できる立場=安室の上司という関係性も見えてくる。となれば当然黒田が「コナン=眠りの小五郎」であることを知ったのは安室からの情報と見て間違いない。
そもそも安室がシェリーを殺した後にもポアロのバイトにいたのは毛利小五郎ではなくコナンに対して興味があったからであり、最終的に安室は「まさかここまでとはな」という言葉から赤井の偽装死を企てた黒幕がコナンであることにまでたどり着いていた。黒田がコナンに対して全幅の信頼を寄せるのも安室からこの衝撃的な事実を聞かされていたからであろう。今回の考察には関係ないが、このような点だけでも黒田が公安の裏理事官であることはほぼ確定的だと言ってもよいのではないだろうか。
③黒田→羽田事件
プロゴルファー殺人事件で若狭留美という名前がネットニュースで拡散された時に黒田はその名前に反応していたことから黒田が羽田事件に何らかの関心を持っていることはわかる。もし黒田がラムならラムは羽田事件の火消しをしているため、若狭留美に反応するのは何ら不自然ではないが、「燃えるテントの怪事件」では羽田事件の捜査資料を見ながら倒れた羽田浩司と若狭を並べて回想している。若狭を羽田事件に関与している人物としてマークしているならば、若狭留美だけを回想するのが普通なのでこの時点で少し引っかかる。さらに黒田は若狭を観察するためにキャンプ地まで自ら接近した上で、若狭に対して「警察を呼んでいいか?」とわざと牽制するような発言をしている。
もう一度確認しておくとラムは羽田事件の火消しをする際に裏でベルモットなどの部下に指示をするだけで、自分から直接行動に出ることはなかった。このラムの特徴が今回の黒田の行動とはかなりズレている。
また黒田は若狭に「警察を呼んでもいいか?」と牽制しているが、これは若狭が警察から追われる身なのではないかと疑っていることを暗に示す発言なので黒田は羽田事件を追う側だと見てよいだろう。この点もラムの人物像と異なる。
⑷若狭留美
①灰原→若狭
『燃えるテントの怪』はミステリートレインぶりに灰原センサーが再び反応した重要回。この時の灰原の心理状態には波があるのでそれを振り返ってみる。
まず灰原は将棋の駒を握りしめて感情を押し殺している若狭先生にセンサーが反応。そして若狭先生は右目が見えてない可能性が高いことに気づき緊張が高まる。その後は少年探偵団と一緒にいる若狭先生を注意深く観察している描写が続く。最後に事件解決後にはコナンに「若狭先生のこと好きだから悪くいうな」と発言。
一度は若狭先生が「灰原センサーが反応+右目が見えていない」ことから若狭がラムである可能性が高まり緊張していた灰原だが事件解決後には好感を持っている。この理由については現在も不明だが、二人が会話をしてるシーンなどはないため何かを感じ取って「警戒→好感」と若狭先生への印象が変化したと考えられる。灰原の感覚によるものなので具体的な内容を推理するのは難しいが、過去の話を振り返ってみても灰原の組織に対する感覚には信頼できる点が多いので灰原が好きということは若狭先生はラムではない可能性は高いと言える。
②若狭→コナン
若狭先生は初登場回からコナンの推理力の高さに気づいており、コナンを事件に誘導してちょくちょくヒントを出しながらその実力を測っていた。さらに新一が京都の事件を解決したニュースが世間を駆け巡った時にAPTX4869被験者リストを見て笑みを浮かべていた。しかしこれは普通に考えてみるとと不自然。なぜならニュースでは「工藤新一は生きていた」と報道されリストには「工藤新一 死亡」と書かれており、二つの矛盾する事実が両立しているのに若狭先生はその謎が解けているような表情をしているから。
これらの点から若狭先生は「工藤新一がAPTX4869によって死亡したことになっているが、実はコナンの姿になり生きている」という真実にまで辿りついているということが推理できる。
この時点で若狭留美はラムの人物像とかなり離れている。ラム(又はその部下)は修学旅行編後に工藤新一の情報を求めるメールを安室に送っていたり、ベルモットにその父である工藤優作を探るよう命令しているが若狭がラムならこの行動を取る必要がない。しかもAPTX4869によって工藤新一が幼児化して今もなお生きているという状況を知りながらも、コナン及びその周りの人間に一切危害を加えていない。組織が工藤新一という危険分子を敵に回してしまっていることや「APTX4869による幼児化」という組織の極秘プロジェクトに関わる内容が外部に漏れる危険性すらある状況なのにそれを放置している時点で、組織のメンバーである可能性はほぼ0に近いと言って良いだろう。
また若狭は江戸川コナンに関するほぼ全ての真実に辿りついていると言って良い。というのも若狭はコナン=工藤新一に気づいているだけでなく、コナンの推理方法まで熟知しているから。『山菜採り回』…コナンが山村警部に麻酔銃を撃った時点で若狭先生は笑みを浮かべていた。よって若狭先生は「コナンが近くにいる人間に対してまず麻酔銃で眠らせ、その人物の声を変声器で出してその人物になりすまして推理する」ことをすべて知っていたということ。若狭先生ほどの推理力があればこの事実からすぐに眠りの小五郎の正体がコナンであることにも気づいているだろう。しかし若狭先生はコナンに一切手を出していない。この点も羽田事件の火消しをしているラムの人物像とかけ離れている。
③若狭→羽田事件
若狭先生は生存の羽田浩司とその死体を回想しており、事件の当事者であることはほぼ確定している。どのような形で関わったのかはまだ明らかになっていないが、若狭先生を最も特徴づける点は羽田浩司の御守りである「角」を17年間肌身離さず持ち歩いている点である。
その御守りである「角」は現場から羽田浩司の所持品のうち唯一紛失したものであり、それを所持していれば羽田浩司を殺した犯人ではないかと疑われてしまう遺留品。そんなものを肌身離さず持ち歩いて17年間リスクを犯し続けている時点で、羽田事件で失敗をして火消しを行なっているラムの人物像とは明らかに真逆である。この点は若狭≠ラムを示す決定的な証拠と言っても過言ではないだろう。
⑸脇田兼成
①脇田→小五郎
⑴でも少し述べたが、霊魂探偵殺人事件は羽田事件にダイレクトに関わる事件だったのにそれを解決した毛利小五郎に対してラムが探りを入れている明確な描写はない。ということは描かれていないように見えて、実はもう既に登場している可能性が高い。しかしこの事件直後に小五郎に近づいた人物というのは脇田しかいない。
脇田が小五郎に近づいたみたいな言い方をしているが小五郎がいろは寿司に行ったのは偶然なんだから、逆に小五郎が脇田に近づいただけなのではないかと思う人もいると思う。表面上は確かにそう見えるがこれは偶然ではない。
脇田の初登場回『万馬券事件』では「万馬券を盗んだ犯人がいろは寿司にいるのは誰なのか?」というミステリーが表のテーマになっているが、もう一つ「小五郎が拾った万馬券は誰のものだったのか」というミステリーが裏のテーマであり、表のテーマについてはコナンが推理をして答えが出るが裏のテーマについては答えが出ずに終わる。そこでこの裏テーマを推理していくと実は読者が解けるように巧妙にストーリーが設定されていることがわかる。(詳細を書くとかなり長くなるので割愛させていただきます。詳細が気になる方は《脇田兼則考察》の記事を参照して下さい) 《脇田兼則考察》まとめ
つまり表面上は小五郎が万馬券を拾っていろは寿司に出向いたように見えるが、実は全て脇田に仕組まれていて、いろは寿司に来るように誘導されていたのである。
さらに今回の事件ではいろは寿司の常連が出てくるが常連は脇田のことを知らなかった。よって脇田がいろは寿司の板前に就いたタイミングは小五郎が店に来る数日前。脇田の一連の行動をまとめると次のようになる。
A.いろは寿司で働いていた板前を交通事故で入院させ動けない状態にする→B.脇田がいろは寿司に就く→C.大将に毛利小五郎が店に来るタイミングがいつなのか聞き、競馬で大当たりをした時にしか来ないという情報を聞きつける→D.場外馬券場にいる小五郎にぶつかったふりをして財布に馬券を仕込む→E.いろは寿司で小五郎と会話をする→F.わざと推理ミスをして小五郎を持ち上げ弟子入りを志願する
このように脇田の裏の行動を読み解いていくと、霊魂探偵殺人事件を解決した疑惑の人物「毛利小五郎」を探りにきた組織の人間が脇田であることがよりはっきりしてくる。そしてその正体は羽田事件の火消しを命令されたラムの部下、もしくはラム本人が直々に出向いたというパターンのどちらかである。しかし⑴で読み解いたラムの行動を振り返ると羽田事件の火消しでは、ラムは裏でベルモットなどの部下に命令するだけで表での活動は部下に任せる用心深い性格だったので、この点を踏まえると脇田はラムの部下である可能性の方が高い。
②脇田→安室
脇田と安室が絡んだのは『雪山の山荘回』が初めて。ここで最も注目すべき点は脇田の意味深なセリフ。脇田は安室に対して「自分を謀る裏切り者がわかるじゃないですか、鮮度の落ちた魚を高値で売りつける仲卸とかね」と発言。前半部分だけでは脇田が公安としての立場で言ったのか、組織の立場で言ったのか判別出来ない。しかし後半部分の発言に注目するとどちらの立場で言ったのか判別出来る。
そもそも「鮮度の落ちた魚を高値で売りつける仲卸とかね」という言葉は比喩表現であり、その真意は何かということが問題になる。仲卸とは簡単に言えば仲介人のことであり、安室が何かを仲介・媒介する役割を担っているのは公安側でも組織側でも情報収集であるからここでいう魚は情報に対応していると見て良いだろう。
ではどんな情報なのかということが問題だが、直近で安室の♠️のついたスマホ(公安用)と無印のスマホ(組織用)両方に「工藤新一の情報」を要求するメールが来ていた。よってこの情報というのは工藤新一の情報である可能性が高い。
しかし『女性警察官連続殺人事件』のラストで、安室は公安の上司である黒田に「例の件はどうなっている?」と聞かれて「まだ何も」といって工藤家のお茶会のことを思い浮かべていた。つまり安室は工藤家に侵入して得た情報を公安(黒田)に対しては全く報告してないことがわかる。
ここでもう一度脇田の意味深な発言に戻ってみると「鮮度の落ちた魚を高値で売りつける仲卸とかね」と発言しており、脇田は少なくとも情報を受け取ってはいることがわかる。よってここから脇田は公安側ではなく組織側の人間であると判別できる。つまり安室が二通目に受け取ったRUMを名乗るメールの送り主は脇田(orその周辺人物)であるということが見えてくる。
ちなみに脇田の意味深な発言の真意は「自分を謀る裏切り者がわかるじゃないですか、たとえば周知された工藤新一の情報をあたかも重要な情報として提供してきた情報収集人である君とかね」ということだと推理できるので安室は脇田(orその周辺人物)に工藤新一の情報を送ったがその内容は無難でありきたりなものだったようだ。
③脇田→工藤新一
工藤新一は生きていたというニュースが駆け巡った時、脇田はスマホを見て「新一?」という反応を見せる。そして次の日には出前という口実で工藤家付近に出向いて聞き込み調査をしている。脇田の「新一?」という反応は意味深。この反応についての詳細な考察をここで述べるとかなり長くなってしまうので割愛するが(前にふせったーで述べたツイートを参照してください→https://twitter.com/tsutinokousatsu/status/1305708176818319360)、結論を述べると「新一?」=「ラムから工藤新一の情報を要求するというメールが来たが、なんでラムは工藤新一の情報を欲しがっているんだ?」という心理だと読み取れる可能性が高い。
④脇田の行動パターン
これまでの脇田の行動パターンには特徴的な部分が三点ある。
《A.表で積極的に活動》
一つ目は表で積極的に動いているという点である。例えば①で述べたように寿司屋の板前という立場を利用して小五郎に近づいたり、②で述べたように小五郎の弟子になったのちに安室や小五郎と共に行動して探りを入れたり、③で述べたように工藤新一の情報を得るために自ら足を運んで聞き込み調査をしている。
これらの行動は「裏で部下に命令するだけで表での活動は部下に任せて暗躍する」というラムの行動パターンとは真反対である。
《B.攻めた行動=大胆な行動が多い》
二つ目は攻めた行動が多いという点である。例えば①で述べたように小五郎に自ら万馬券を仕込んでいろは寿司に来るように誘導したり、②で述べたように安室に「裏切り者ではないのか?」と発言してカマをかけたり、『屋根裏の密室殺人編』ではコナンに「在るはずのものがないと気になりやすからねぇ、例えば将棋の駒とか」と発言してカマをかけたりしている。
カマをかけるという大胆な行動では相手の反応を見ることができるというメリットがある反面、相手に何かを探ってきているという疑いの目をかけられるデメリットもある。つまりこれらの攻めた行動にはある程度のリスク=代償が伴っているということ。
しかし⑴で読み解いたようにラムは慎重で用心深くなかなか尻尾を出さないような性格である。このような人物像と脇田の行動パターンを比べると非常に対照的であることがわかる。
《C.ラムを匂わす行動》
三つ目は脇田がラムであるように振る舞っているという点である。というのもまず脇田は、左目に眼帯をつけてわざと目に注意がいくようにしている。もし義眼をつけているのならばせっかく義眼で片目が見えていないことをカモフラージュ出来るのに眼帯をつけてしまえば義眼なのではないか?と疑われるリスクを自ら高めている。
さらに名前が「時は金なり」ということわざのアナグラムになっており、ラムの口癖がtime is moneyなのかはまだわからないがメールの文面でラムがよく使っているのだとしたら、これも自分がラムであるのではないかと疑われるリスクの高い行為である。
このように脇田は疑われるリスクを省みず自分がラムであるかのような振る舞いをしている。このような行動は慎重で用心深いラムの人物像とはズレているが、自分がラムであるかのように振る舞うことでラムを探るものをあぶり出そうとしているオトリだと考えると一連の行動には納得がいく。
《D.結論》
上のように脇田の行動を細かく分析していくと、確かに脇田は組織の人間でありラム候補の中では最もラムに近い人物ではある。しかし脇田の行動パターンはラム本人とは真反対でありラムを匂わす行動が多いので、むしろラムの影武者と考えた方が納得のいく行動も多い。
⑹青山先生の発言と「暗示」
①ブラックプラスSDB
青山先生がブラックプラスSDB(スーパーダイジェストブック)の読者からの質問コーナーで次のようなやり取りがある。
質問者(92番)「RUMは黒田、若狭、脇田の中に確実にいますか?」という質問に対して青山先生は「いますね!!」と答えている。
この公式本での発言をもとにすると、ラム候補の三人がラムでないという可能性はあり得ないことになるため今回の考察とは矛盾している。青山先生のこの発言を軸にしてラム候補三人の中にラムがいるとするならば消去法によりラム候補の中で最もラムに近い脇田がラムということになるだろう。しかし…
②ラム編の「暗示」
しかし原作を読んでいると所々に気になる暗示がある。というのもまずラム編がスタートする時に出てきた阿笠博士の紅茶トリックでは4つの紅茶がありそのうちの3つのドクロが消えるというものだった。これは4つの選択肢のうち一人の人物がラムであるとも取れる。またこれに対して「インチキ」というワードも登場。
他にも『雪山の山荘編』では「3つともハズレのないミントケース」が出てきたり、「小五郎は引いちゃならないハズレを引かない」ということがババ抜きの段階から示唆されている。3つともハズレのないミントケースはラム候補三人が全員ラムではないということを暗示しているようにも取れるし、小五郎は引いちゃならないハズレを引かないというのは脇田がラムではないということを暗示しているようにも見える。またこの回では「イカサマ」というワードも登場。
また青山先生はラム編がスタートした直後に動物の森で「ラムはもう出てたりして」と発言している。ラム候補が一人も登場してない段階でのこの発言にはやはり何か意味があるような気もしてくる。
③真のラム
このように青山先生の発言がある一方で、暗示されているトリック・インチキ・イカサマの類が実はラム編には隠されていて、ラム候補の中にラムの影武者はいるけど真のラムはいないという可能性は十分考えられる。例えばラムとRUMという表記の違いが何らかの伏線になっているとか、もしくは黒田が二人いて一方が本当のラムとか、他にも様々なインチキが考えられるかもしれない。もしかしたら青山先生の「もうラムは出てたりして笑」という発言は真のラムがラム編以前の1〜85巻の中にいるよというヒントだったのかもしれない…。
ここまで読んでいただきありがとうございました。ついに連載の方では100巻に突入してラムも登場したことでラム編のクライマックスが少しずつ近づいているような感じがしてきました。そこで今回このタイミングを機に、ラム候補に関するラム編考察を書いて見ました。「ラムは誰なのか?」というミステリーへの結論まだ出ていませんが、その途中経過として今回の考察では「真のラムがいるのではないか」という結論に至りました。しかしこんな奇妙な地点に来たものの次に進む手がかりが少なく混迷を極めている状態です。今回の考察を読んでくださった方で感じたことや意見、アドバイス等ありましたらブログにでもtwitterにでも連絡していただけると嬉しいです。 土ノ子
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