『若狭留美 過去の物語(0 to 20)』第三章

*はじめに*

・この記事では若狭留美の過去(出生から羽田浩司殺人事件まで)を考察していきます。ただし形式が今までのように論理的に説明をしていく「論説形式」ではありません。今回の考察はミステリー小説のような物語を通して自分の考察を感じ取っていただく、いわば「小説形式」の考察です。直接的に考察を表現していく論説形式の考察と異なり間接的に考察を表現していくため、考察の焦点が不明瞭になってしまうというデメリットもありますが、物語という形式でしか表現できない登場人物の感情・価値観・人間関係の変化を表現できるというメリットもあります。今回はその点を特に意識して描いているで、是非注目してみてください!

・本ストーリーは三つの章で構成されており、全十話の話が全て繋がったミステリー小説形式になっています。所々オリジナルストーリーを組み込んではいますが、コナンの世界観を前提としたうえで原作のネタ・伏線・考察要素を随所に散りばめているので、是非探してみてください!笑

・第一章(第一話~第四話)は「若狭留美の人格形成」、第二章(第五話~第七話)は「羽田浩司殺人事件前編」、第三章(第八話~第十話)は「羽田浩司殺人事件後編」をテーマにしています。第一章は原作でもヒントが少なく、オリジナルストーリーを組み込んでいますが、その後の第二章・第三章に直結してくる細かい伏線をたくさん織り交ぜています。(2020年)10/28~11/24まで3日置きに一話更新していく予定です。

・新しい試みなので感想・意見・要望等いただけると嬉しいです。今後の参考にさせていただきます。


第三章「決壊」

第八話「遺志」 〜真のボディーガード〜

マデイラ「お前の推理はたしかに見事だった称賛に値する。わたしを楽しませてくれたお礼にせっかくだから死ぬタイミングくらいお前に選ばせてやってもいい。心配はいらない一撃で意識を刈り取ってやるから痛みは一瞬だ。さあ覚悟を決めたら言えよ、この世を離れる覚悟が出来たらな」

羽田浩司は深い眼差しを若狭に向け、落ち着いて話し始める。

羽田浩司「いやそれは誤りですよ」

若狭「誤り?」

羽田浩司「あれは僕だけの推理じゃない。あの読みは『私達』の推理です」

マデイラ「私たちだと?お前が先ほど言っていたようにお前に帯同していたSPはあの大男たった1人だけだろ?あいつがお前とそんな話をするタイミングもなかったとは思えんし、第一お前が私の犯行を確信したのは私を部屋へ誘い込んだ時だと自分で言っていたじゃないか、何の悪あがきだい?」

羽田浩司「ええもちろん、彼ではありませんよ。私たちがアフターヌーンティーを部屋で楽しんでいる時、あなたは私の部屋の門番をしていましたし、おそらくこの計画を何度も何度も頭の中でシミュレーションしていたでしょうからそもそも眼中になかったと思いますが私たちはあの部屋で君の話もしていたんですよ」

マデイラ「私の話?ああ、そういえばお前は私がボディーガードとなった経緯やその推理力を知っていたようだったなそれで?それがどうした?」

羽田浩司はゆっくり目を閉じた後、再び目を開き重々しく語り始める。

羽田浩司「アマンダさんは気づいていたんですよ、あなたの正体に。その話を聞いた時まだ僕は半信半疑でしたけどね」

マデイラが羽田浩司を嘲笑う

マデイラ「ハッハッハッハ!!何を言うかと思えば残念だがそれはありえない。現にアマンダ家(ヒューズ家)で約一年ボディーガードを務めてきたが、奴に疑われるようなことは一度もなかった。その証拠に彼女は私が入れた毒入りの紅茶を自分から普飲んで死んだそれはお前の勘違いだ」

羽田浩司「当然ですよ」

マデイラ「当然?」

羽田浩司「あなたはアマンダさんが現役を引退して資産家になる前は何の仕事をしていたかもちろんご存知でしたよね?」

若狭「ああアメリカの優秀な探偵だったんだろ?」

羽田浩司「ええその通りです。アマンダさんは現役時代FBICIAに一目置かれるほどの優れた推理力で、アメリカで起きた難事件をいくつも解決していました。そのためFBICIAにも名が轟いていて、彼女はその探偵業で稼いだ資金を用いて老後に資産家を営んでいたんです」

マデイラ「フン、そんなことは事前に把握済みだ。私が生まれたあたりで現役を引退してから20年ほど資産家として活躍していた。80歳を超える老婆だったか多少は老衰していると見ていたが、未だ聡明な人物であることは奴を助けた時にすぐわかったから限りなく慎重に完璧な演技を実践することにした。この計画に唯一ミスがあったとすれば羽田浩司、お前の術中にはめられ正体に気づかれたこと、それだけだ。しかしここで私がお前を葬ればそのミスはなかったことになる。結果的に完璧な計画だったことには変わりない」

羽田浩司「たしかにあなたは恐ろしいほど忠実に架空の『浅香』という人物になりきっていた。しかし完璧ではなかった……あなたはどうやらまだ気づいていないようだその綻びに」

マデイラ「綻びだと?」

羽田浩司「アマンダさんはあなたのことを自慢のボディーガードとして絶賛していましたよ。弱冠20歳という若さでありながらも驚異的な度胸と忍耐力を備えており、危険な相手なら一瞬にして意識を刈り取り制圧する卓越した武術力を持っている。自分(アマンダ)を助けたくれた時もシークレットサービス(SS)並みの実力だったと。しかもその能力は武術に留まらず並外れた観察力や思考力、深い教養を持ち合わせており現役時代の自分以上の推理力も持ち合わせている。私にはもったいないくらい素晴らしいボディーガードだとね」

マデイラ「好意的な印象・信頼を持たれるようにそうしていた。それがなんだ?綻びでもなんでもない、完璧な演技だろ」

羽田浩司「そうあなたはまさに完璧という言葉を体現するような人物だったのでしょう。だからこそアマンダさんは気づいたんですよ、あなたの違和感にね」

マデイラ「違和感?」

羽田浩司「アマンダさんはここ最近僕と会う時、いつも不思議そうに呟いていました」


〜回想①・始〜

アマンダ「そういえばね、最近どうしても解けない謎に出会ってね」

羽田浩司「アマンダさんが大好きな『謎』ですね、それは興味深い」

アマンダ「ええ、実はねいつも真面目でミス一つせず驚くほど完璧に仕事をこなす浅香がなぜか定期的に浩司さんと会う時だけ部屋で飲む紅茶が少しぬるいのよ』

羽田浩司「それが謎なんですか?」

アマンダ「自分が熱い紅茶しか飲まないのは浅香も知ってると思うんだけどね」

羽田浩司「お湯が温まらないうちに、カップへ注いでしまったのかもしれまさんね。まあそういうミスは誰にでもありますよ、アマンダさん」

アマンダ「そうね、仕事柄細かい所がどうしても気になっちゃうのよね〜謎なんて言えるほど深く考えることでもなかったわ忘れてちょうだい」

羽田浩司「そうですね」

アマンダ「まああんなに完璧に仕事をこなす彼女でもそんな簡単なミスをしてしまうこともあるってことだからやっぱりこの世界に完璧な人間なんていないってことだわね」

羽田浩司「確かに。ある意味、謎に対する答えが出ましたね!」

アマンダ「そうね!浩司さん、おばあさんのお節介くらいに思って聞いて欲しいことなんだけどね、完璧な人間がいないってことは全てを知り尽くした完璧な棋士もいないってことよ。浩司さんはいつも謙虚だし心配はいらないと思うけど自分は完璧で最強の棋士だ、なんて思っちゃだめよ。完璧になれない未完成な存在であることこそ人間の何よりの魅力なんだからね」

羽田浩司「その言葉、心に刻ませていただきます。将棋という小宇宙を開拓する僕らの冒険に終わりはないように、僕たちの生きる道にも終わりはありませんよね」

〜回想①・終〜


マデイラ「少しぬるかっただと?いやそんなはずはない、あいつがそう勘違いしただけだろ」

羽田浩司「僕も最初はそれくらいに思っていましたでも本日のアフターヌーンティーでアマンダさんはそれまでとは少し違った妙なことを口走っていたんです」


〜回想②・始〜

羽田浩司「随分前に話した謎?といいますと

アマンダ「ほら、前に言ったと思うんだけどなぜか浩司さんに会う時だけ紅茶が少しぬるいって謎よ。あの謎やっぱり気になっちゃってね、前回浩司さんとお茶会を済ませたあとに部屋で浅香が紅茶を入れる様子をチラッと見てみたんだけどね……なぜかわからないんだけどポットで紅茶を入れ終わったあとピタッと動きを止めてたのよ。まあもう一回見た時には何事もなかったように動いてたんだけどね。まるでその時間だけ時が止まっていたみたいにね。それで私なりに推理してみたんだけどね、これはひょっとして私のボディーガードっていう激務に耐えかねて浅香は紅茶に毒を入れて私を殺そうかどうか迷っているってことじゃないかしらね」

アマンダが冗談まじりに発言したあと

羽田浩司「ハッハッハ、そんなご冗談はやめてくださいよ。浅香さんはアマンダ家での働きぶりはさることながら、家での人間関係も良好で楽しそうな毎日を過ごしてるって前に言ってたじゃないですか」

アマンダ「たしかに!浅香には私を殺す動機がないその点が矛盾してるから私のこの推理はハズレのようね。私も随分と衰えてしまったってことだわね」

羽田浩司「そんなことないですよ。今でも光ってます、アマンダさんの推理力は。この前教えていただいたプロジェクトの一件も、アマンダさんの発案で順調に進んでるみたいじゃないですか」

アマンダ「相変わらず優しいわね、浩司さんは。でも………なんで浩司さんと会う時だけなのかしらね。もしかしたら浅香は私を利用してあなたに近づこうとしているのかもよ、実は私以上にあなたのファンだったりして!」

〜回想②・終〜


マデイラ「ハッハッハ!!面白いことを言うじゃないかアマンダも。でも真実は一つそれは冗談に過ぎなかった。彼女が本気でそう思っていたわけではない。お前はその場にいなかったからわからないと思うが、先程話したように彼女は私がついだ毒入りの紅茶をなんのためらいもなく飲んだ。お前がどんなに力説しようとその事実は覆らない」

羽田浩司「それで当然ですよ。君がまだ気づいていないだけだアマンダさんの真意に」

マデイラ「真意に気付いてない?クックックッそんなものは最初から存在しないだろ。お前の希望はもう全て尽きたさあ潔く負けを認めろ羽田浩司無駄なことは嫌いな性分なんだ」

羽田浩司「では最後にもう一つ。アマンダさんはお茶会の最後にこんな発言をしていました」


〜回想③・始〜

……

アマンダ「彼女はね、この先もずっと私達のボディーガードよ」

羽田浩司「そうですか」

羽田浩司「前お話していただいたことですが、彼女の故郷を特定したらその教会と仲間たちを呪いから解放させて、浅香達に『生まれてきてよかった』って思えるような幸せな生活をプレゼントするという夢は

羽田浩司がそう言いかけた時アマンダが悲しい笑顔で次のように呟いた

アマンダ「ごめんね、浩司さん」

羽田浩司「え?」

アマンダ「私が死んだら彼女のこと頼んだわ」

羽田浩司「それは構いませんけどもしかしてご病気か何か?」

アマンダ「大丈夫、私はずっと元気よ!心配いらないわ

〜回想③・終〜


羽田浩司「だから僕は気になって部屋の外の廊下に出たあとアマンダさんに聞こうと思ったんです。『ごめんね』ってどういう意味ですか?と」

マデイラ「

羽田浩司「でもあの時のアマンダさんの悲しみに満ちた笑顔を思い出したらなぜか聞けなくなってしまって。次の機会に聞こうと思ってしまいました。アマンダさんはずっと前から辿り着いていたんですよ、あなたの真相にね」

マデイラ「だからどうしたそもそもアマンダがお前に謝る必要なんて一つもないだろ。気づいていたわけがない」

羽田浩司「

羽田浩司は鋭い眼光を放ちマデイラを見つめる。

マデイラ「羽田浩司、なら説明してみろ。アマンダは私の正体に早いうちから気づいていたのに、なぜ私を罠にかけなかったのか。そしてなぜアマンダは私が彼女を毒殺しようとしていたのを知っていて紅茶を飲んだのか。これらの矛盾点を説明できない時点でお前の主張は破綻している」

羽田浩司「アマンダさんなら微かな笑みを浮かべて、こう応えると思いますよ『言わなきゃわかんない?浅香』とね」

しばらく両者黙っていたが、徐々にマデイラの表情が曇り始めた。

マデイラ「いやまさか……でもそんな馬鹿なこと……あるはずがないだろ」

羽田浩司「そう………彼女は、アマンダさんは『あなたを信じていた』。だから彼女はあなたを疑うような素振りを一度も見せなかったし、あなたを捕まえようともしなかった。最後の時もきっとあなたが入れた紅茶から湯気がたっているのを見て、ようやく夢が叶うと喜んで紅茶を飲んだのだと思いますよ。無事に紅茶を飲み終わることができれば、それはあなたが迷わず毒を混入しない道を選んだということになりますからね。アマンダさんがとった最後の選択こそ彼女が最後の最後まであなたのことを信じていたという証だった、ということですよ」

マデイラ「馬鹿な!馬鹿げてる!そんなことあるわけない!!私は……奴のボディーガードを殺すよう仕向けた上に初めてあった時からずっと利用していたんだぞ!!」

羽田浩司「ええ確かに。でもそれでもアマンダさんならきっとそうしたと思います」

マデイラ「……

羽田浩司「あなたの策略は恐ろしく巧妙であり、君はそれを何の不自由もなく正確に実践していた。まさに『完璧なスパイ』のように。しかしアマンダさんが言っていたようにこの世界に完璧な人間なんていない、君は完璧じゃなかった。君はアマンダさんと僕が開いている定期的な会合の時だけ小さなミスをしていた。なぜかアマンダさんがいつも飲んでいるアールグレイのホットティーは少しぬるかった。とても小さな綻びだが、アマンダさんはそれを見逃さなかった。それはアマンダさんが探偵業で培った鋭い観察力をもっていたからだけではない君のそれまでの仕事ぶりが恐ろしく完璧だったからだ。アマンダさんは君のミスが偶然ではないこと、それが決まって僕との会合の時だけ起こることに気づいた。そのたった一つの綻びから彼女は悟ったんだ君が自分を利用して僕を殺そうとしている偽りのボディーガードであるということ、そしてその前にまず自分を毒殺しようと考えていることに。アマンダさんだけは気づいていた、いつも仕事を完璧にこなしていた君が犯したたった一つのミスから君の真実にね」

マデイラ「だから言っただろ!私がそんな馬鹿なミスをするわけがない。私は確かにミスなど犯していなかった、毎回いつも通り紅茶を入れていた!!奴の、アマンダの感覚がずれていただけだろうが」

羽田浩司「いや、その逆ですよ」

マデイラ「ぎゃ、逆だと!?」

羽田浩司「君だけが君の心だけがその瞬間『時が止まっていた』んですよ」

羽田浩司「アマンダさんは君の真実に気づいていながらも君をとらえようとしなかった。憎悪をもって応えようとはしなかったんだ。でもその代わりに彼女はどうしたか……彼女は君に愛をもって応えようとしていたんだ。君は君自身の中で起こった異変を心の奥底に沈めこもうとしていたからそのミスにさえ気づかなかっただろうが、彼女はその小さな綻びのもう一つの意味まで悟っていた。僕との会合で君が入れてくれる少しぬるい紅茶を彼女は何度飲んでも死ななかったということ君は頭では完璧に理解していて次にどうすれば良いかも完全にわかっていたはずだが、なぜか身体が動かず毎回未遂でとどまっていたということになる。つまり君は紅茶が少しぬるくなるまで毎回迷った末に結局毒を入れられなかったんだ、この真実にまでアマンダさんは辿り着いていた。だからアマンダさんはずっと君のことを信じたんだ。最初は偽りだったかもしれないそれでも自分達家族の元で共に日々を送っているうちに君の心が少しずつ揺れ動き始めているならば、きっといつか自分の想いが通じて君が自分を裏切る前に君の『故郷』である組織を裏切って、自分達を本当の意味で守ってくれるボディーガードとして家族の一人につまり偽りではなく『真のボディーガード』になってくれると信じていたということですよ。アマンダさんは自分の身をもって証明しようとしていたんじゃないですかね『愛はどんな闇をも貫くシルバーブレットになる』という自分の信念を。だから彼女は飲み続けたんですよ、君が入れてくれる少しぬるい紅茶を。ずっとずっといつか君が入れてくれる温かい紅茶を飲み終わる日を夢見てね」

マデイラ「デタラメだ!そんな馬鹿みたいなお人好しがこのつまらん世の中にいるはずがないだろ!!」

羽田浩司「浅香さんアマンダさんがそういう人であるということは君も心の奥底では十分分かっているのではないですか?きっと君の心にも刻まれているはずです、最後の最後までアマンダさんが君に届けてようとしていた愛の形が」

マデイラ「そんなもの……

マデイラの脳裏にアマンダが残した声がよみがえる。


『あなたを飲み込んでいる呪縛が完全に溶け散って、その心の奥底に深く刻み込まれた過去の傷と向き合いながらも、本当の仲間とともに前を向いて歩いていくあなたの本来の姿よ』

『フフッ、あなたとても賢いのにそんな簡単なこともわからないの?いつも一緒にいるんだからご主人様の心くらい推理しなさいよ』

『ねえ、浅香。呪いが解けたら、あなたに

『浅香、あなたはこの先も私のいや私達のボディーガードよ』


羽田浩司「君が今日アマンダさんを殺したことは真実でも君が君の心がずっと揺れ動いていたこともきっと真実だったのではないですか?約一年前、君は僕を殺す目的で実に巧妙な策を立てアマンダさんのボディーガードとして潜入を開始した。でもその潜入期間中に仮面を被っていながらもあなたは初めて『人の温もりや家族の温かさ』を無意識のうちに感じていたやではないですか。完璧主義の君はそれが何なのかわからくて思わず心の奥底に封じていたのかもしれませんが、アマンダさんをはじめとするアマンダ家の家族のみんなと過ごした11日の思い出が色のついた小さな滴へと変わり、純黒に染まっていた君の心を少しずつ溶かしていたそうしているうちに気づけば君の心はアマンダさん達との思い出でいつのまにか彩られていたのだと思います。だから君はずっとアマンダさんを殺せなかったのでしょう。しかしその様子を見かねた人物、おそらくそれは君を裏で支配している人物の命令によりあなたの心はもう一度闇に包まれてしまった。でもそれは包まれているだけです。その闇の中であなたの本来の心は眠っているだけですよ、きっとあなたの心の奥の奥にはアマンダさんとの幸せな思い出が眠っていて、その中でアマンダさんは生き続けている僕はいや私達はそう信じています」


羽田浩司の言葉が少しずつ彼女の心に沁み込んでいく。彼女は次第に目をつぶるようになった彼女が奥底に封印していた記憶が彼女の心を縦横無尽に駆け巡り出したのだ。


少しの沈黙が続いたのち、拳を握りしめているマデイラへ羽田浩司が優しく語り始める。

羽田浩司「今日のお茶会でアマンダさんからあなたの誕生日のことも教えてもらいました」


〜回想④・始〜

アマンダ「そういえばこの前、浅香の誕生日でね。彼女めでたく20歳になったから、記念にと思って家族みんなでサプライズ誕生日会をやったのよ!」

羽田浩司「そうだったんですか、浅香さんおめでとうございます」

アマンダ「盛大にやろうと思ってね、執事さんやお手伝いさんとか家族のみんなでプレゼントをあげたんだけど」

羽田浩司「それはきっと浅香さんもお喜びになられたでしょうね」

アマンダ「うん、たしかに喜んでたけど実はそれはメインじゃないのよ」

羽田浩司「ほぉ〜もっとすごいサプライズを用意していたということですか?」

アマンダ「そうなのよ。私の案なんだけどね彼女の誕生日に家族みんなで浅香に歌をプレゼントしようってことになったのよ」

羽田浩司「歌ですか、それは素敵ですね。誕生日となるとやはり『Happy birthday to you』を家族みんなで斉唱して20歳の記念を祝うということですかねとても素晴らしいアイデアですね」

アマンダ「普通ならそう思うと思うんだけど、実は歌ったのはその曲じゃないのよ」

羽田浩司「え?そうなんですか?誕生日の記念といったらやはり定番のあの曲かなと思いましたが」

アマンダ「まあそれはみんなにも言われたんだけどね。サプライズなんだから普通じゃつまらないでしょってことでみんなで頑張って練習したのよ。あと当日は著名なオルガニストに来ていただいたわ」

羽田浩司「メロディを奏でるのはオルガンでみんなで練習するような曲ですか

アマンダ「ええ」

…………

羽田浩司「申し訳ありません、アマンダさん。ギブアップです!」

アマンダ「フフッ、これだけのヒントじゃ難しいわよね。正解はね、アメリカ国民に広く親しまれているとても有名な賛美歌『Amazing Grace』よ」

羽田浩司「いや〜それは意外でした!ひょっとしてそれは前に教えていただきましたが浅香さんの故郷が教会だからということですか?ひどい虐待を受けていた環境であったことには変わりないですけど、その教会が浅香さんの唯一の故郷でありその彼女をずっと見守っていた親のような存在、すなわち教会に宿っている神様がいたことには変わりないだけどその真実を受け入れた上で憎悪に襲われず、赦し(ゆるし)をもって前を向いて生きてほしい。そんなメッセージを歌にしたということですか?」

アマンダ「……その通りよ!たったそれだけで一瞬のうちに私の心を読み解くなんて、さすが四冠王の浩司さんね」

羽田浩司「いえいえ前にアマンダさんから聞かせていただいた夢のお話はとても印象的だったので。きっと叶うと思いますよアマンダさんの夢」

アマンダ「そうかしらね」

羽田浩司「アマンダさんの想いは浅香さんに届いてますよ。きっと彼女は憎悪に支配されず、全てを乗り越えることが出来ると思います。そしてアマンダさんの元を離れるときにきっとこんなふうに言ってくれると思います。『私は変われました生まれたことを否定された子どもなんてこの世にはいない、アマンダさん達と過ごした日々の中でそう思えるようにそう確信しました。私生まれてきてよかったです、本当にありがとうございました』とね」

アマンダ「そうだったらいいわね」

羽田浩司「きっとそうですよ!四冠王の僕がいうんだから間違いまりません!なんて」

アマンダ「ハハハッ、その通りだわね〜四冠王の浩司さんが言うんだから間違いないわ!」

羽田浩司「ハハッ、そうですそうです」

アマンダ「若いのに本当に気が利くのね、ありがとう浩司さん。でもサプライズの合唱が終わった直後のことなんだけど、なぜか浅香は何の反応も見せずにまるで時が止まっているかのようにずっと立ち尽くしていたのよ。しばらくして私が駆け寄って名前を呼んだら気づいたんだけどね」

羽田浩司「絶句するほど感動していたってことですよそういえばアマンダさんは浅香さんに何のプレゼントを?」

アマンダ「私はね、最近若い女性の間で流行ってるコスメよ。ある化粧品メーカーがマスカラに手鏡をつけたのよ『PUT ON MASCARA♡』って書かれたね」

羽田浩司「化粧品だったんですね。僕は化粧をしないのであまり馴染みのない品なんですが女性には人気がありそうな品ですもんね」

アマンダ「ほらさっきも言ったんだけど、浅香は真面目すぎるのよ。ずっと仕事に集中してるしすごい体力を持ってるからほとんど休まないのよ。その上いつも私のためで休日もずっと仕事のためにトレーニングしてるのよ。自分のために時間を使ってるところは見たことがないくらい。だからね、せっかく20歳にもなったんだからたまにはこの手鏡でお化粧でもして遊んでらっしゃいって思ってね」

羽田浩司「なるほど、たしかに浅香さんはとても勤勉でアマンダさんに尽くしてらっしゃるのは間違いと思うのですが他人のために頑張りすぎているところもありそうですし、そんな想いを伝えるのに効果的なプレゼントですねよね。まあしかし浅香さんはアマンダさんが絶賛するほど激務で大変なボディーガードとしての責務を1ミリも気を抜くことなく果たしている、それはそれで素晴らしいことでもありますが」

アマンダ「確かに驚くほどの献身ぶりよ、彼女は。でもね私が本当に望んでいるのは、ひたすら真面目に仕事を全うして自分を捨てて私の命を守ってくれるような仕事のパートナーとしての彼女じゃないのよ。彼女にはね、ボディーガードという仕事をお願いしつつも、時にはたわいもないことで笑い合ったり、どうでもいいことで食い違って喧嘩したり、お互い悲しみを分かち合ったり、知恵を出し会って問題を解決したり、私たちが当たり前と思って過ごしている『なんでもない日常』を共に大切にしていけるような家族の一人になってほしいって思ってるのよ」

羽田浩司「なるほど全てが終わるまでは浅香さんも家族の一人ということですね」

羽田浩司が一息ついてから話しだす。

羽田浩司「感銘を受けました………実にアマンダさんらしいですね。アマンダさんをみんなが慕っているのは決して優秀な資産家だからという陳腐な理由だけではない。もっと……

アマンダ「あら、浩司さんにそんなこと言ってもらえるなんて嬉しいわね」.羽田浩司「やはりアマンダさんのような成熟された年配の方とのお茶会はとても勉強になります。生きることの奥深さについて気づかされますよ」

〜回想④・終〜


羽田浩司「アマンダさんはあの時、僕の推理を『その通り!』といっていましたが本当は検討外れで全く別の意味が込められていた」

羽田浩司「アメイジング・グレイスは赦し(ゆるし)の歌アマンダさんが歌を通してあなたに伝えたかった真意・本当のメッセージは『それでも私はあなたを受け入れる』だったのでしょう」


マデイラは拳を強く握りしめ、目をつぶりながら俯いていた。


アマンダの言葉が闇をすり抜けてマデイラの心へと沁み込んでいくにつれ、マデイラの心に潜んでいた日々の記憶に命が宿り始めた。すると闇に包み込まれていたはずのマデイラの心は少しずつ少動き出した。マデイラが心の奥底に封印していた記憶がやがてアマンダの愛で彩られた思い出に次々と変わりだす。絶えることなく溢れ出てくるアマンダとの思い出が、彼女の心を包み込んでいた闇を打ち破ろうとするが如くうごめき始めたのである


アマンダの祈りがゆっくりと頭に鳴り響く中、心の中で二人の言葉がぶつかりあう

Amazing grace how sweet the sound 

『私の元で特別なゲームを一緒に楽しまないか』

『あなたをスカウトさせてほしいの、私のボディーガードとして』

That saved a wretch like me

『このプログラムの完璧さこそが、この一件の黒幕が君であることの証拠にしてはくれないか』

『完璧になれない未完成な存在であることこそ人間の何よりの魅力なんだから』

I once was lost but now am found

『私の右腕になり早三年、歴代最年少でのコードネーム襲名祝わせてもらってもいいだろう

なんでもない日常を共に大切にしていけるような家族の一人になってほしいって思ってるのよ』

Was blind but now I see

『君からその言葉が聞けて嬉しいよでは証明出来なかった場合は……わかってるな?』 

『大丈夫よ、心配はいらないわ。あなたならきっと乗り越えられる、私達がついてるもの』


羽田浩司が回想の続きを語りだす。


〜回想⑤・始〜

アマンダ「浩司さんだけに教えようと思うんだけどね実はもう決めてるのよ、次の誕生日プレゼント」

羽田浩司「それは驚きました!もう決まっているとはとても早くから考えてらっしゃるんですね」

アマンダ「まあまあ、きっとすぐに来るわよ」

羽田浩司「確かに一年というのはあっという間ですが」

アマンダ「さあ浩司さん!誰よりも深く先を読むことのできるその天才的な頭脳で次のプレゼントを推理してみくださる?」

羽田浩司「それは恐縮ですがそれはなかなかの難問ですね。浅香さんに家族の一人になってもらいと望んでいるアマンダさんのことですから、そのような関係性を象徴する類のはず」

アマンダ「ほうほう」

羽田浩司「さらにアマンダさんは浅香に自分の時間を大切にしてほしいと考えていることやその中で20代女性への誕生日プレゼントということを考えると、次の浅香さんへのプレゼントは『アマンダさんとのペアリング』ではないでしょうかね」

アマンダ「うーん残念!」

羽田浩司「まだまだですね笑」

アマンダ「不正解だったけれど、途中まではいい線いってたわよ、さすが浩司さんだわ」

羽田浩司「ということは家族の一人とてしの関係性を象徴するというところまでは正しかったんですか?」

アマンダ「ええ、そこまでは的中してたわ。それを具体的に考えるのは難しかったみたいだけど」

羽田浩司「答えは何だったんですか?」

アマンダ「正解はね、『名前』よ」

……

〜回想⑤・終〜


羽田浩司「こんなふうに話していらっしゃいましたよ。あの時はその真意がわかりませんでしたが、アマンダさんは信じていたんでしょうねあと少しできっともう少しで君が家族の一人に、真のボディーガードになってくれると」


彼女の心を包み込んでいた闇は今にも弾けそうなほど飽和していた。

『そろそろ出発するわよ浅香、準備はいいかしら?』

『さすがだなマデイラ、次の任務も頼む』

マデイラ「ううぅぅぅぅぁぁぁあ」

マデイラは唸り声を上げた後、目をゆっくりと開いた。

マデイラ「私には……もう…………!」

マデイラ「私にはもうこの道を進む以外ない!!」

若狭が爪が食い込むほど握りしめた右手の拳が動き出しそうになったその時、羽田浩司がその拳を左手で強く握りしめた。

(続く)


【次回予告(11/21投稿予定)

アマンダの遺志を紡ぐ羽田浩司!アマンダの祈りは届くのか?羽田浩司が最後に指す一手とは?



第九話「妙手」 ~遠見の角に好手あり~


マデイラ「手を放せ、羽田浩司!私は私は裏切ったんだ!私をスパイだと知っていながらも私を信じて待ち続けていた馬鹿なあいつを私がこの手で殺したんだ!!これは真実だ!もう私は過去には戻れないんだ!」

羽田浩司「嫌です。確かに人は時の流れに逆らえないでもそれでもやり直すのに時の縛りなんてありませんよ」

マデイラ「違う!ありえない!私は引き返すことなんてもう出来ないんだ!私はもう突き進むしかないんだ、定められたこの道を!!」

羽田浩司「君の中で生きているアマンダさんもきっと祈っているはずだ!たとえ君の心に罪という名の一生消えない深い傷が刻み込まれていようとも、君はそれを乗り越えてもう一度本当の仲間達と前を向いて歩き出すことができると」

マデイラ「フン笑わせるなそんなの夢物語、幻想だ!お前はわかっていない私が今まで犯してきた数々の罪を。そして私が今日犯した罪信じ待ち続けてくれたアマンダを最後に私は裏切り殺した。これほどの十字架を背負えるはずもないそれに本当の仲間だと?そもそもこんな傷だらけの人間に最初から居場所なんて

その言葉を言いかけて俯いたマデイラを見て、羽田浩司は懐から将棋の駒を取り出しマデイラの方へと見せる。

羽田浩司「遠見の角に好手ありってね」

意表を突かれたマデイラは訝しげ(いぶかしげ)に羽田浩司を見上げる。

マデイラ「!?」

そう言い終えると羽田浩司は離さず握りしめていたマデイラの拳を優しく開き、その将棋の駒をマデイラの掌の上に乗せた。そして今度は両手でマデイラの拳を包み込む。

マデイラ「な、お前は何を

羽田浩司「これは将棋の駒の角。何でも知ってる君なら当然ご存知だとは思いますが、角とは斜めならどこまででも盤上を突き進むことができる強力な駒。でもこの駒はただの角じゃないこれは僕の『御守り』なんですよ」

マデイラ「御守り?」

羽田浩司「僕には自分を棋士として育ててくださった師匠がいます。その師匠に初めて勝った対局で最後に僕が指したのがこの角だったんです」

マデイラ「フンだからなんだと」

マデイラの言葉を遮り羽田浩司が続ける。

羽田浩司「でもこの角は元々『僕の角』ではなかった前に言いましたよね?将棋がチェスと異なる最大の特徴は『取った相手の駒は持ち駒として自分の駒になる』という点。あの対局においてこの角は相手から取って『新たに仲間に加わった角』だったんですよ」

マデイラ「

羽田浩司「将棋の世界では角に関する『遠見の角に攻守あり』という格言があります。これは相手から取って新しく仲間に加わった角を遠くから敵陣を狙えて、なおかつ自陣の通常では移動できないイレギュラーな位置に配置すると攻防に適した好手になりやすいことを示しているんです」

羽田浩司「あの対局で僕はこの格言に倣い(ならい)師匠から取ったこの角を自陣の守りを固めつつ遠くから敵陣を狙うことの出来るマスに指した。しかし自陣で守りの要を担っていたその角が最終局面では敵陣に踏み込み竜馬と化して師匠の王にとどめを指したんです、何が言いたいかもうおわかりですよね?」

マデイラ「その角になれとでもいうのか?」

羽田浩司の両手がマデイラの拳を優しくさらに深く握りしめる。

羽田浩司「君はアマンダさんや僕たちの遠見の角だ。君ならこの角のように僕たちのボディーガードとして自陣を守りつつも、チャンスが来れば竜馬の如く猛威を奮って敵陣に乗り込み敵のボス、すなわち『烏丸蓮耶』を追い詰めることが出来る。まさにこの角のようにね」

マデイラ「フンそんなの将棋の世界の話だろこの世界という『ゲーム』ではそんなこと起こり得ない。罪は消えない悪は最後まで悪のままだ」

羽田浩司「この世界は『ゲーム』なんかじゃない!!」

羽田浩司の心に潜む竜が突如姿を現し、マデイラが立ち退く。

マデイラ「!

羽田浩司「確かに将棋はゲームだ。決められたルールの中で盤上の駒達は主導権をもったプレイヤーによってのみ動くことができる。でもこの世界は決してゲームではない。この世界で生きている僕たちは駒でも道具でもない!僕たちはみな『意志』を持った人間なのだから」

マデイラ「意志?そんなもの無意味だ!!今まで犯してきた罪もアマンダさんを殺した罪はもう一生消えないんだ!私の時に刻み込まれた運命(さだめ)に意志などというちっぽけなもので抗うことなど不可能だ」

羽田浩司「いいんだよ傷だらけで。アマンダさんも言ってたじゃないか完璧じゃなくたっていい一生治らない傷があったっていい。君の心を今までの罪がどれだけ苦しめようとも君の心が幾重にも連なる十字架に押しつぶされそうになろうとも君は決して一人じゃない。アマンダさんがそして僕たちがそばについているさ。罪は消えなくても償うことが出来る僕たちと乗り越えるんだ!今まで辿ってきた道を君の意志でもう一度歩み直すんだ!!」

マデイラ「なんでなんでお前は馬鹿なのかなんでそこまで

羽田浩司「僕も信じているんだアマンダさんが信じ続けた君のことをね」

マデイラの目には羽田浩司の背後に笑顔を浮かべて自分を優しく見つめているアマンダの姿が写っていた。

羽田浩司「君の運命は最初から決まってなんかない。君が君自身の意志で選んだ道それこそが君の本当の運命だろ?」


パァン……



アマンダと羽田浩司が放った銀の弾丸は若狭留美の心を包み込んでいた漆黒の闇を貫いた。闇は無残に弾け散っていった



ポタ………ポタ……ポタポタポタ、大粒の涙が次から次へと床に落ちていく。20年という呪われた人生の中で生まれて初めて彼女の目から透明な涙がこぼれ落ちた。それはまさに彼女の心のダムが決壊した瞬間だった


羽田浩司は和服から自身のハンカチを取り出し、俯いている若狭に差し出した。若狭の左手にハンカチを添えると、羽田浩司は振り向いて黙って窓の方を見つめていた。こぼれ落ちる涙の音だけが部屋中に響き続いていた。



しばらくすると羽田浩司が振り向き様に優しく尋ねかける

羽田浩司「それでも僕を殺すというのですか?」

若狭は何も答えられずただただ俯いていたが、しばらくして若狭は顔を下げたまま両手に持っていたハンカチと将棋の駒を羽田浩司の方へ差し出した。羽田浩司は左手のハンカチだけを受け取った。

羽田浩司「そちらは持っていてください」

若狭は思わず顔をあげる。

若狭「え?」

羽田浩司「それはあなたが持つべきものですから」

若狭「いやこれはあなたの大切な御守りでは」

羽田浩司「それはもうあなたに差し上げます。………その代わり一つだけ約束していただけませんか?」

若狭「約束?」

羽田浩司が一度目をつぶった後、優しく語りかけた。

羽田浩司「今度こそ僕の……いや僕たちの本当のボディーガードになってくれますか?ミネルヴァ・ヒューズさん」

若狭は微かな笑みを浮かべ、下を向きながらも静かにうなずいた。

若狭「でもこれは受け取れないさ私は今から警察に行くから」

羽田浩司「心配いりませんよ。警察には僕の方からお願いしておきますから証言台にも僕が立ちます」

少しの沈黙のあと若狭が静かにつぶやいた。

若狭「そっくりだな

羽田浩司「え?」

若狭「私からも一つ約束させてもらっていいか?」

若狭は将棋の駒をズボンのポケットに入れ、懐から手鏡を取り出して羽田浩司に差し出した。

若狭「これはあなたが持っていてくれアマンダさんへの罪を償うまで私にはこれを携える権利はないからな」

羽田浩司「わかりました。あなたが帰ってくるまで私が預かってますよ」

若狭は振り向いてドアの方へ向かう。

若狭「全ての真実を話してくる」

羽田浩司「僕たちはずっと待ってますから……あなたが帰ってくるのを」

若狭が静かに笑った。

若狭「フフッほんとそっくりですよアマンダさんに」

若狭が扉のロックを解除する。レバーを下げて扉を開こうとした時、一度立ち止まりつぶやいた。

若狭「あんたの妙手にはしびれたよ……羽田名人」

羽田浩司「それは恐縮ですが羽田名人はよしてくださいよ、名人位はこれから取り行くんですから」

若狭「フフッそうか

若狭は最後に振り返り、羽田浩司の眼を見た。

若狭「ありがとな……羽田名人」

羽田浩司は少し困ったような笑顔を浮かべ、小さくうなずいた。そう言い終えると若狭は扉を開けて、部屋の外へ出て行った。


その後所持していた部屋の鍵で扉をロックして振り返ると……そこにはホテルマンの格好をした男が一人立っていた。

(続く)


【次回予告(11/24投稿予定)

物語が完結する最終話!若狭留美に隠された秘密が明らかに!?彼女が最後に選びゆく運命とは


最終話「運命」   〜死神の血〜


若狭が羽田浩司の部屋から外に出て部屋の鍵をかけ振り返ると、そこにはホテルマンの格好をした一人の男が立っていた。

若狭「!……なんでしょうか?」

ホテルマン「随分時間がかかっていたようだな、マデイラ」

若狭「!!ひょっとしてお前はラムなのか!?」

ラム「君の一連の行動は隅から確認させてもらったどうやら作戦通り『証明』は完了したようだな」

若狭「フン当然だ。それよりどうした遠くから見守っているんじゃなかったのか?」

ラム「あぁだからこうして『遠くから』見守っていたのだよマデイラ。今回の任務では君でさえ作戦を中止するほどの不測の事態が何度も起こっていた。さらにホテルという空間は簡単に密室と化す。万が一君が想定外の網に引っかかりでもしたら、暗殺を執行出来ないどころか君が取り押さえられる可能性すらある。念には念を入れようということでね……ベルモットの変装術を借りて直々に私がここまで出向いたという次第だよ」

若狭「ハッハッハ!!相変わらず用心深い野郎だな。安心しなその無意味な懸念は杞憂に終わったのだから」

ラム「そのようだなでは君はこの逃走経路から先に車に戻っていなさい。立つ鳥跡を濁さずだ。君は顔が割れているリスクは常に最小限に留めなければね」

若狭「先に?あんたも来るんじゃないのか」

ラム「私はこの後スタッフルームに潜入して、防犯カメラのデータの最終チェックを行うもちろん必要とあらば消し去ったのちそちらに向かう。10分もあれば済む」

若狭「だからその変装かピスコの時もそうだったが慎重居士も甚だしい所だな、お前は」

ラム「万が一だ。あくまでも我々の手法は影のように忍び寄り

若狭「霧のように消え失せるフン、それが我々の鉄則だったな」

ラム「あぁ一つのミスでさえ許されない、我々の任務は常に完璧でなければならない。さあ無駄話はこれくらいしよう。こんな所で話していては目立つ、君は先に車へ戻っていなさい」

ラムは車のキーと逃走経路を記したホテルの構造マップを若狭に渡す。

若狭「了解」

若狭はマップに示された裏ルートでラムが手配した車へと向かった。


若狭は薄暗い非常用階段をゆっくりと降りていた。空間には靴の音が響き渡る。

若狭「…(奴がこの現場に来ることは想定外だったが、これは用心深い奴を捕らえる願ってもないチャンスだ…)

若狭はラムとの記憶を一からさかのぼっていた。

若狭「…(初めは私がクラス0に所属して2年目の頃だったな。13歳の時だ日々の実務訓練に飽きた私は問題行動を起こし、教室長室に呼び出された。そこで反骨心を剥き出しにした私にピスコが拳銃を向けた時、突如として声が現れたそれが奴だった。ラムは私とピスコに実力で決着をつけさせる折衷案を提案してきた。それしてその勝負に勝ったわたしは授業にも参加しなくなり次第に孤立していった。そのあとだったなラムが姿を現したのは。奴はコンピュータウイルスを世間にばら撒いて暇を持て余していた15歳の私を『ゲーム』という名の刺激物()で手懐けたそしてラムは私の反骨心をうまく利用した。私の心からあふれ出ていた強烈なエネルギーを組織の任務へとうまく誘導したのだ。言われるがままに奴の右腕になった私は難易度の高いミッションをクリアしていき、3年後にはコードネームを授けられるほどの地位を手に入れた。奴は私に常に餌を与え続け満足させると同時に私を最強の魔物へと育て上げていたのだ。まさにラムは私を手のひらで巧みに操る猛獣使いだ……まあしかし、そのやつの驕りこそ最大のチャンス。まさか常に満足する餌を与え、五年間かけて手懐けた猛獣に首を噛まれるとは人一倍慎重なやつでも想定できないだろう…)

薄暗い非常用階段を一階まで降り終えた若狭は裏口からホテルの外へ出て、パーキングエリアに向かった。

若狭「この車か

若狭は車に乗り込んだ。

若狭「…(奴は人一倍鼻が利く警察を呼び待機させれば、すぐにこちらの気配に気づき逃走されることは目に見えている。確実にやつを捕らえるには唯一ラムから信頼されている私が一対一で接近して、うまく罠にはめるしかない。それにはこの車という密室空間に奴が入り込んだ絶好のタイミングで奴の動きを一瞬にして封じ込むことのがベストだろう封じ込む手段としては、奴に最も悟られにくいこの小型スタンガンを用いるのが最善策か)

若狭「よし、全ての環境と手段は整っている。あとは待つだけだ残り5分程度で必ず奴は戻ってくる」

若狭は将棋の駒を握りしめて、目をつぶった。

若狭「…(チャンスは一度きり、必ず

噛み付いてやるさ、ラム。お前の最大の誤算その隙を突いてな)


10分後

若狭「さすがに遅いな。奴の実力ならあんな簡単な後始末、3分もあれば終わるはずだが

後部座席に座ってラムを待っていた若狭は駐車場の周辺を窓越しに見渡す。

若狭「!……(そういえばこのフロントミラー念のため私が写らない角度に調節しておいた方がいいか)

そう思って若狭がフロントガラスに顔を近づけた時、「ドクン」と心臓の拍動が体全体へと響き渡った。

ドクン……若狭の頭に、ある一つの可能性が浮かぶ。

若狭「(まさかまさか)

若狭は車を出て一目散にホテル一階の裏口へと戻り、1階から14階までの非常階段を全速力で駆け上がった。

若狭「(まさか…)

彼女の脳内には最悪のシナリオが浮かんでいた。

14階まで登り終えると若狭はすぐに羽田浩司の部屋(1412号室)のドアの前まで急行して、所持していた鍵でドアのロックを解除した。急いで部屋に入って中へと駆けつけると、そこには散乱した食器類と口から血を流して倒れている羽田浩司の姿があった

若狭「!!!…………

目の前の光景に衝撃を受けていると、すぐにもう一つの強烈な衝撃が若狭を襲いかかった。

若狭「ぐあああぁぁぁぁぁぁ!!」

若狭を待ち構えていたラムの左肘が若狭の右眼に直撃したのだった。

ラム「フン馬鹿なやつ

若狭「クソッ、やはりお前が!」

ラム「お前にしては気づくのが遅かったなマデイラ


〜回想①・始〜

……

若狭「了解」

若狭はマップに示された非常用階段へと繋がる扉へと向かった。

ラム「

ラムは非常階段へと向かう若狭の背中を深い眼差しで見つめていた。

ラム「……(涙?確かにマデイラの顔には涙痕があった見間違えではない)

ラム「…(あのマデイラが涙を流すとは考えられないが、まさか…)

ラムは一度トイレへ向かい個室の中で携えていた鞄からパソコンを取り出した。

…………

…………

…………

ドンドン!部屋のドアをノックする音が聞こえた。

羽田浩司「ん?(誰だ)

羽田浩司がドアの小窓から外を覗くと、そこには浅香が立っていた。

羽田浩司「浅香?なんで戻ってきたんだ?」

ドアのロックを解除しようとしたその時、羽田浩司の手がなぜか止まった。

羽田浩司「…(なんだこの胸騒ぎは何か引っかかる)

羽田浩司は念のためドアのチェーンロックをかけたあと鍵のロックを外してドアを少し開けた。

羽田浩司「どうしたんだい?警察に行くって

羽田浩司がそう言いかけた時、強烈な力でドアが引っ張られ、一瞬のうちにドアと壁の間に靴が入り込んだ。

ラム「まさか生きているとはな羽田浩司」

羽田浩司「!…(なぜ浅香じゃないんだ!?)誰だあなたは!」

ラム「お前が浅香に何をしたかのかはまだ計り知れないが、お前が彼女を狂わせたことは確かだ」」

羽田浩司「!(まさか……彼女の心を裏で支配していた黒幕が…)

ラムは工具を用いて固定されたチェーンを外し始めた。

羽田浩司「(なぜ異変に気づけなかったんだ!浅香は部屋を出て行った後で自分から鍵をかけていたじゃないか!それにドアの小窓から見た姿が不自然だったのは合成写真だったというわけかどうする!)

羽田浩司は手に持っていた手鏡の文字を見ると、何かを閃いたような表情を見てすぐに洗面所に走っていった。

バキ!ジョキ!

羽田浩司「(すまない浅香…)

ラム「さあその面を拝ませてもらおうか羽田浩司」

ラムがチェーンロックを外し中に侵入する。部屋に入ると同時にラムの目の前にコップが飛んできたが、ラムはそれを素早くかわした。

ラム「フン、不意打ちをしてくることくらい読んでるさ

羽田浩司の顔に緊張が走る。

羽田浩司「来るな!」

羽田浩司は立て続けにアフターヌーンティーて使った食器をラムに投げつけるが、どれもヒットせずかわされてしまう。ラムは一歩ずつ羽田浩司へジリジリと忍び寄っていく。

羽田浩司「お前が浅香を!ぐはぁっ」

接近してきたラムが羽田浩司の体に2,3発軽く蹴りを入れる。羽田浩司は自身の腕でなんとか体へのダメージを防ぐが、どんどん後ろへと追い込まれていく。逃げ場を失った羽田浩司にラムは容赦なく顔を殴り始めた。

羽田浩司「ぐはぁ、ごほっごほっうぅ」

羽田浩司の眼鏡が床に落ちた。ラムは羽田浩司の髪を左手で掴み上げ、尋問を始めた。

ラム「お前は浅香に何をしたんだい?」

羽田浩司「………

羽田浩司は奥歯を噛みしめ、ラムを睨みつける。ラムは再び羽田浩司の顔を右手で殴った。

ラム「聞こえなかったか?お前は浅香に何をしたんだ?なぜあいつはここで涙を流した?」

羽田浩司は口から血を吐きながらも懸命に痛みに耐えていた。彼の鋭い眼差しには一歩も譲らないという信念が宿っていた。

ラム「

冷たい目で羽田浩司を見ていたラムは最後に羽田浩司の額を蹴り倒した。

羽田浩司「ぐはっ…………

ラム「馬鹿なやつだ

ラムは洗面所の蛇口から汲んだ水を携えていたAPTX4869と一緒に気絶した羽田浩司の口へと流し込んだ。気絶していた羽田浩司はすぐに悶え始めた。

羽田浩司「うっっっっ(誰か………このメッセージの真意に辿り着ける救世主よ……浅香を……ミネルバを……)

羽田浩司「ぐぁぁぁぁぁぁぁ

バタン

羽田浩司は息を引き取った。

ラム「フン自分のことだけを考えればいいものの馬鹿なやつだ。君の七冠王への夢の旅はここで終わりだ、残念だったな羽田浩司

ラムはチェーンロックを元に戻して後始末をしたのち、散乱した食器や皿を見渡していた。

ラム「ん?ガラスが割れて文字が一部残っているが。P,T,O,N…?まさかダイイングメッセージか

ラム「いや問題ないな、24通りどの並べ方でも我々を示すメッセージにはならない。どうやら奴が私に食器やグラスを投げつけた時に偶然割れただけのようだ」

ラム「マデイラ少々君には躾が必要のようだね」

〜回想①・終〜


ラム「マデイラ君は私に嘘をついたね?君は任務を果たさぬどころか、羽田浩司に警察へ行くと言っていたそうじゃないか」

若狭は右眼を押さえて、激痛に耐えながらラムを睨み続ける。

ラム「フッフッフ。お前には透明な涙なんて似合わないさ君に相応しいのはその右眼から溢れ出て今にもこぼれ落ちそうになっている緋色に染まった血の涙だ。実に似合っているよ鮮やかな色だマデイラ」

若狭「うぅぅぅ

ラム「なんだその目はどうやら君は何か誤解しているようだ。『裏切りには制裁をもって応える』確かにそれが我々の鉄則だが今回だけは特別に片目を失うだけで許してやろうと言っているんだ」

若狭「フン、ただでさえ用心深いお前がそんな甘い行動を取るわけがない。そんはハッタリで私を油断させるつもりか?」

ラム「ハッハッハ確かに君は私のことをよくわかっているな、しかしそれ以上に私は君のことをよくわかっているんだよ」

若狭「ハッハッハこの状況でよくそんなことが言えるな。お前は羽田浩司が生きているのを知るまで私の反故を見破れなかっただろ

ラム「それは君が一時的に狂っていたからだ、早く目を醒ましなさいマデイラ。私にはね、君の考えていることも君が次にどんな行動を取ろうとしているのかも手に取るようにわかるんだナイトバロンの時のようにね」

若狭「……

ラム「本当は君の記念すべき20歳の誕生日にサプライズで教えてあげようと思っていたのに君がわざと暗殺の決行を遅らせていたせいでそれは出来なくなってしまったからね仕方ないからここで教えてあげることにしよう。今、君の右眼を真っ赤に染めているその鮮やかな血それは元々私の血さ」

若狭「な、なに!!それってまさか……

ラム「そうだよマデイラ君は私の愛しい愛しい娘なんだ。だから君のことを誰よりも理解しているのはこの私だ。私にはすべて読めていたんだこの私の遺伝子を受け継いでいる君なら特別学校の卒業試験をトップで通過することもクラス0の実務訓練を誰よりも早くマスターして指導員や教室長へ反骨することもそして指導員や教室長をも凌ぎ、孤高の境地で一人暇も持て余すことも君が私の元で任務を行なっていればわずか数年でコードネームを手に入れることも全て私の想定内だ。今回の一件のみ唯一の想定外しかしそれはアマンダや羽田浩司がお前に何かを吹き込みお前を狂わしたから。君が催眠状態に陥っていたから起こった出来事に過ぎない。さあその痛みで早く目を醒ましなさいマデイラ」

若狭「ふ、ふざけるな!」

ラム「いいやふざけていないこれが真実だ。実に美しいことじゃないか私たちが5年間築いてきた絆はまさに血の絆そのものだったんだ」

ラム「マデイラ誰しも子は親に反抗したくなる時があるものだ。しかしそれを乗り越えてこそ親子の絆というものはより強くなる君が目を醒ましさえすれば、今回は私の計らいで特別に君を不問に付してやろうなぜなら君は私の愛する娘なのだから」

若狭「

ラム「フフフッまさか君がこのまま逃げるなんて無謀なことをしないことは私が一番よくわかっているさ。この状況で逃げてしまえば、君はアマンダと羽田浩司を殺した最重要容疑者として全米に知れ渡る。一般市民の目をかい潜りながら、連邦捜査局FBIの追跡を巻き、さらに我々組織の追っ手から逃げることなどいくらお前でも不可能だろ?しかも今のお前には視野が半分ないその先の末路など明明白白、絶望しかない」

若狭「うぅ!」

若狭は拳を握りしめ増してくる目の痛みに耐え忍ぶ。

ラム「お前の全身を駆け巡っている血は私と同じ黒い血だ。どうあがいたところで無駄でしかないお前の運命など生まれた時から決まっているのだから

若狭はズボンの左ポケットに入れた将棋の駒を力強く握りしめた。

ラム「そろそろ目を醒ましたかなさあうちへ帰ろう、マデイラ」

そう言い終えて若狭に近づいたラムに対して、若狭は痛みを全く感じていないかのような毅然な態度でラムへと立ち向うのだった。

若狭「誰だそれは?」

ラム「ん?」

ラム「何を言ってるんだマデイラ君はもう少し躾(しつけ)が必要なようだそのままでいなさい」

ラムが若狭の顔を殴ろうとした時、若狭が大声で叫び出した。

若狭「私はマデイラではない……私はミネルヴァ・ヒューズだ!!!」

強烈な回し蹴りがラムの右目へとふりかかるが、ラムは両腕をクロスしてギリギリの所で受け耐えた。

ラム「くっっっっ!」

不意打ちを受けたラムは若狭の蹴りの衝撃をなんとか吸収し、ようやく目を見開いた。しかしもうそこにはマデイラの姿はなかった。

ラム「まさか……まさか本当に逃げたというのかフッフッフ、ハッハッハ!!本当に馬鹿な奴ばかりだ」

そう吐き捨てたラムは窓の外を走る車を見つめて呟いた。

ラム「私の右目に襲いかかるとはマデイラ、お前とは絶交だお前はもう私の娘ではない。絶望の渦の中で生き絶える運命を自ら選ぶとはフン、実に馬鹿な奴だ」

そう言い終えるとラムは部屋を去っていった。



『私はあの時わかっていた確信していたんだ、この茨の道に希望など万に一つもないことを。でもそれでも私はあの時迷わずミネルヴァ・ヒューズとして生きていく道を運命を選んだんだ。馬鹿な奴さ、本当に


〜回想②・始〜

アマンダ「浅香は本当に物知りねぇ、世界の神話にも精通してるなんて」

浅香「教会の倉庫の本を漁るように読んでいたせいですね」

アマンダ「じゃあ浅香にクエスチョン!知恵・戦術・工芸の女神であり、ギリシャ神話のアテナと同一視されるローマ神話の女神といえば?」

浅香「もちろん知ってます、ミネルヴァですよね。ギリシャ神話ではゼウスと知恵の女神メティスの間に生まれた戦争の女神とされている。ただそれは攻撃面ではなく防御面としての女神、すなわちギリシャの都市ポリスの守護神としてでしたっけ?」

アマンダ「補足説明まで、大正解よ!この女神、あなたにぴったりよね

浅香「え?そうですか

アマンダ「ミネルヴァ・ヒューズなんていいじゃない響きもいいし」

浅香「確かに素敵ですね」

…………

しばらく沈黙が続いていたが浅香が自分から話し始めた。

浅香「あの

アマンダ「うん?」

浅香「それならアマンダさんはフィデスかな。あでもフィデス・ヒューズじゃあんまり語呂がよくないからやっばりアマンダさんはアマンダ・ヒューズがぴったりですよね」

アマンダ「フフッ珍しいわね〜あなたがそんなこと言うの」

浅香「すいません変なこといって」

アマンダ「何言ってるのよ、嬉しいわ。ありがとね!」

浅香「いえいえ」

アマンダ「さてとそろそろ出発するわよ浅香、準備はいいかしら?」

浅香「はい!いつでも大丈夫です」

〜回想②・終〜



Happy Birthday, Minerva

彼女が生まれて初めて涙を流した日その日は彼女のもう一つの誕生日になった。

()



ここまで読んでいただきありがとうございました!

『若狭留美 過去の物語(0 to 20)』はいかかだったでしょうか。コナンのヒューマン要素(人間ドラマ)・青山先生が事件を通して伝えようとしているメッセージ(哲学)などいつもの評論形式では伝えられないような要素を表現したいと思い、物語式考察という新しいジャンルに挑戦してみました!!普段の謎解き考察とは異なるコナンの面白さを少しでも味わっていただけていたら僕は嬉しいです。あとこの物語を読んでくれた方が若狭先生のことをもっと好きになってくれたらいいなって思ってます笑。ラム編では若狭先生がコナンサイドのジョーカー的なポジションを担うと思います。みんなで若狭先生を応援しましょう(任意)‼ 土ノ子

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